元体操選手からナノエンジニアへ：テイラー・ユーカーツ氏が切り拓く、プラスチックリサイクルの新時代

元体操選手からナノエンジニアへ転身したテイラー・ユーカーツ氏。彼女は、かつてファンタジー作家を目指していましたが、現在は分子マシンを駆使してプラスチックや化学物質のリサイクル・再生に取り組んでいます。本記事では、ユーカーツ氏が科学の世界で「世界をより良くする」という情熱をどのように実現しているのか、そのユニークな経歴と革新的なアプローチに迫ります。

ナノエンジニアリングへの道：火災から分子操作へ

ユーカーツ氏は9歳の時、サンディエゴ近郊で大規模な山火事を経験しました。避難の最中、彼女は炎が家を襲う様子を目の当たりにし、予測不可能な世界への認識を新たにしました。この経験が、後に科学で世界を「修正する」という彼女の原動力の一つとなります。

当初は生物工学を志すも、細胞や動物実験に興味を持てず、転機となったのはナノエンジニアリングの講義でした。原子レベルで物質を操作し、その性質を変えることができるという学びに衝撃を受け、科学が世界の仕組みを理解し、改善する手段となり得ると確信しました。

ケンブリッジ大学で博士号を取得する過程で、ユーカーツ氏はプラスチック廃棄物を太陽光で燃料に変換する研究に従事。その中で、技術の環境・経済的影響を定量的に評価する「ライフサイクルアセスメント」や「技術経済分析」の重要性を認識し、これらの分析手法を深めることを決意しました。

国立ロッキー研究所（NLR）での活躍

ユーカーツ氏は、分析化学のバックグラウンドがほとんどないにも関わらず、国立ロッキー研究所（NLR）から誘いを受けました。エネルギーと素材という、環境に大きな影響を与える二つの分野に携われることに魅力を感じ、分析手法をゼロから学ぶ意欲を持ってNLRに参画しました。

NLRでの主な活動は二つあります。一つは、プラスチックリサイクルや廃棄物からの化学品製造における、経済的・環境的パフォーマンスを分析すること。もう一つは、研究開発の初期段階で潜在的な問題を特定し、解決するための分析ツールの開発です。

従来の機械的リサイクル（プラスチックを溶かして再成形する手法）について、ユーカーツ氏は「壊れている」という一般的な見方に疑問を呈しています。機械的リサイクル自体は比較的安価で低エネルギーであるとし、問題はむしろ「プラスチックが分別回収されるか」というアクセシビリティにあると指摘。分別されればリサイクルは十分に可能だと述べています。

テクノロジーと社会実装のギャップを埋める分析の力

ユーカーツ氏のキャリアパスは、科学技術が「完璧」であることよりも、いかに「社会に有用」であるかを重視する姿勢を示唆しています。彼女が注目する、リサイクルや化学品製造における経済性や環境負荷の分析は、革新的な技術が実用化されるために不可欠な要素です。特に、機械的リサイクルの有用性を再評価し、課題を「収集」に求めた視点は、技術偏重になりがちな現代において、社会システム全体を俯瞰する重要性を教えてくれます。

研究開発の初期段階で、コスト、汚染、水使用量などの「ペインポイント」を特定し、早期に解決策を見出すアプローチは、イノベーションを加速させる鍵となります。これは、将来的に産業や社会に大きな影響を与えうる新技術、特に化学物質や素材分野において、無駄な投資や開発の失敗を防ぎ、より迅速かつ効率的な社会実装を可能にするでしょう。

ユーカーツ氏がNLRでの仕事で最も重要視しているのは、優秀な人材と共に働く「コラボレーション」です。分子が相互作用して物質を形作るように、多様な専門知識を持つ人々が協力することで、複雑な社会課題の解決に繋がるブレークスルーが生まれることを彼女は示唆しています。これは、科学技術の進歩だけでなく、持続可能な社会の実現においても、分野を超えた連携がいかに重要であるかを物語っています。