地図から消されたソウルの「隠れ村」:写真家・浜田英次郎が記録するグリュン村の記憶

地図から消されたソウルの「隠れ村」:写真家・浜田英次郎が記録するグリュン村の記憶

カルチャー現代アート写真ソウル九龍村ドキュメンタリー都市開発

韓国・ソウルの高級住宅街として知られる江南(カンナム)のすぐ隣に、デジタルマップ上には存在しない「グリュン村(九龍村)」という場所があることをご存知でしょうか。かつて労働者たちが寄り添い、自給自足のコミュニティを築いたこの場所は、現代の都市開発の波にのまれ、今まさに失われようとしています。2026年「KYOTOGRAPHIE x Dazed Award」を受賞した写真家・浜田英次郎氏が、この隠された村の日常をカメラに収め、失われる記憶を記録したプロジェクト『The Rookery』に迫ります。

消えゆくグリュン村の全貌と写真家・浜田英次郎の挑戦

グリュン村の成り立ちと隠された実態

グリュン村は、1988年のソウルオリンピックに向けた開発や、80年代の経済変動の過程で労働者たちが住み着いたことで形成された集落です。公式な地図には載っておらず、住民たちは住所を持たない「不法占拠者」として、インフラも不安定な環境で暮らしてきました。かつては8,000人規模のコミュニティが存在したとも言われています。

自給自足するマイクロコスモスの日常

この村は、単なるスラムではなく、食堂や幼稚園、薬局、共同浴場などを備えた独自の自給自足コミュニティとして機能してきました。浜田氏は、村の中に作られた迷路のような路地や、住民たちが育てている作物や家畜の姿を通して、都市の隙間で力強く生きる人々のコミュニティの有機的なつながりを記録しています。

浜田氏が抱いた「撮影」への強い動機

浜田氏がこの場所を撮るきっかけは、外部のメディアが村を単なる「恐怖の貧困地帯」として消費し、そこに生きる人々の尊厳を無視した映像を見たことでした。彼は単なる傍観者としてではなく、時間をかけて住民との信頼関係を築き、一人ひとりの人生と物語を尊重するアプローチで、彼らの日常を「あるがまま」に immortalize(永遠に記録)しようと試みました。

都市開発の裏側にある「排除」と記憶の継承の意義

都市の発展と切り捨てられる「生」の対比

グリュン村の存在は、資本主義と現代都市開発がいかに不平等な基盤の上に成り立っているかを浮き彫りにしています。高級住宅街や futuristic(未来的な)建築のすぐ隣に、歴史から忘れ去られようとしている住民たちの生活があるという事実は、発展の裏側に存在する「排除」の構造を突きつけています。この二項対立は、都市の成長と引き換えに私たちが何を「無価値」と見なし、切り捨てているのかという問いを投げかけています。

写真という媒体による歴史の保存

村が取り壊され、高層ビルが立ち並んだ後、そこには過去の記憶は何も残りません。浜田氏によるドキュメンタリー写真は、単なる視覚的な記録を超えて、その場所が持つコミュニティの絆や生存の軌跡を、次世代へ繋ぐための「歴史的証言」として機能します。彼が示した「アウトサイダーとしていかに敬意を持って物語を預かるか」という態度は、今後の社会的なドキュメンタリー撮影における重要な倫理的規範となるでしょう。

画像: AIによる生成