
AIと患者ゲノム情報でがん治療の新境地へ:BPGbio、革新的な固形がん研究の結果を発表
BPGbio社は、進行性固形がん患者97名を対象としたBPM31510-IVの第1a/1b相多施設共同試験の結果を『Cancer Research Communications』誌に発表しました。この試験では、ミトコンドリア代謝を標的とする薬剤BPM31510-IVが、がん細胞のエネルギー代謝を変化させ、治療効果をもたらす可能性が示されました。さらに、同社のAIプラットフォーム「NAi® Interrogative Biology®」を活用することで、患者のゲノム情報(オミクスデータ)や臨床データから薬剤の効果を予測し、最適な治療戦略を導き出す手法が実証されました。この研究は、AIと個別化医療を融合させたがん治療の新たな可能性を示すものです。
AIとゲノム情報で拓く、固形がん治療の新たな地平
BPM31510-IVとは:ミトコンドリア代謝を標的とする革新的な薬剤
BPM31510-IVは、がん細胞のエネルギー産生に関わるミトコンドリアの代謝異常を是正し、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導することを目指す、クラス初の薬剤です。がん細胞は、正常細胞とは異なる代謝経路(ワールブルグ効果)を利用して増殖しますが、BPM31510-IVはこの異常な代謝に介入することで、がんの増殖を抑制します。本試験では、膵臓がん、乳がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、肉腫、腎細胞がん、中皮腫、胃がん、神経膠腫など、多様な種類の進行性固形がん患者が対象となりました。その結果、薬剤は安全かつ忍容性があることが確認され、一部の患者では部分奏効や長期的な病状安定といった有望な臨床的活動が観察されました。また、FDG-PET画像およびマルチオミクス解析により、薬剤投与によってがん細胞の代謝が解糖系(ワールブルグ効果)から酸化的リン酸化へとシフトすることが確認され、薬剤の作用機序が裏付けられました。
AIプラットフォーム「NAi®」の役割:個別化医療への貢献
本研究の画期的な点は、BPGbio社のAIプラットフォーム「NAi® Interrogative Biology®」が、臨床開発における薬剤の適応選択や患者層別化に活用されたことです。97名の患者から得られたマルチオミクスデータ(腫瘍組織、血液プロテオミクス、メタボロミクス、リピドミクスなど)を統合解析し、ミトコンドリア経路の活性と臨床効果を結びつける計算モデルが構築されました。これにより、BPM31510-IVに対する感受性を予測するバイオマーカー、特に酸化ストレス、CoQ依存性電子伝達系の関与、レドックスバランスの異常といった代謝表現型が特定されました。これは、AIや計算生物学プラットフォームが、臨床転帰、人口統計、患者のオミクスデータ、画像、病理情報を用いて、臨床開発における薬剤の適応選択を導いた初期の例の一つです。
今後の展開:AI主導の創薬・開発戦略の加速
BPGbio社は、このAI主導のアプローチにより、BPM31510-IVを臨床的にリスクが高いが、従来の治療法では効果が限定的であった領域へと進める自信を得ました。現在、BPM31510-IVは、新規膠芽腫(GBM)を対象とした第2b相臨床試験(NCT04752813)が進行中であり、膵臓がんの第2a相試験でも有望な結果が得られています。この成功は、創薬・開発におけるBPGbio社の「バイオロジー・ファースト、AI戦略」の有効性を改めて示しました。同社は、このAIと患者ゲノム情報を活用した個別化医療アプローチを、がん治療だけでなく、希少疾患や神経疾患など、他の治療領域にも拡大していく方針です。
AIと個別化医療の融合:がん治療の未来像
AIによるバイオマーカー探索と治療最適化の可能性
本研究は、AIが単なるデータ解析ツールに留まらず、薬剤開発の初期段階から臨床応用までをシームレスに支援する強力なパートナーとなり得ることを示唆しています。特に、がんのように多様な遺伝的背景や代謝異常を持つ疾患においては、個々の患者に最適化された治療戦略の立案が不可欠です。NAi®プラットフォームのようなAI技術は、膨大なマルチオミクスデータを解析し、従来の手段では見出すことのできなかった微細なパターンやバイオマーカーを特定する能力に長けています。これにより、薬剤の効果を予測し、治療抵抗性のリスクを低減することが期待されます。将来的には、AIがリアルタイムで患者データを解析し、治療方針を動的に調整する「アダプティブ・セラピー」の実現も視野に入ってくるでしょう。
ミトコンドリア代謝標的療法の重要性の高まり
がん細胞は、その異常な増殖を維持するために、特異的なエネルギー代謝に依存しています。ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場であり、その機能不全ががんの発生や進行に深く関与していることが近年明らかになってきています。BPM31510-IVのようなミトコンドリア代謝を標的とする薬剤は、がん細胞のエネルギー供給を断つだけでなく、薬剤耐性の克服や、他の治療法との併用効果の増強にも寄与する可能性があります。今回の研究結果は、ミトコンドリア代謝異常が、がん治療における重要なターゲットであることを再確認させるとともに、この領域におけるさらなる研究開発を促進するでしょう。BPGbio社のAIを活用したアプローチは、こうした新規治療法の開発を加速させる上で、極めて有効な戦略と言えます。
AIによる創薬パイプラインの拡充と将来展望
BPGbio社が保有する「NAi® Interrogative Biology®」プラットフォームは、500件以上の米国および国際特許で保護された独自の技術であり、世界最大級の臨床的にアノテーションされた非政府系バイオバンクへのアクセス、および強力なスーパーコンピュータへの排他的アクセスも有しています。これらのリソースを駆使し、患者の生物学的特性を、大規模な生物学的課題解決のために設計されたカスタムベイジアンAIでモデル化するという、新たな医療の時代を切り拓いています。今回の固形がん研究は、その有効性を示す好例であり、今後、同社のパイプライン全体、特にがん、希少疾患、神経疾患の治療薬開発において、AI主導の創薬・開発がさらに加速していくことが予想されます。AIと生物学の深い理解を融合させることで、これまで治療が困難であった疾患に対する有効な治療法の発見と開発が、これまで以上に迅速に進むことが期待されます。