
2025年インターネットトレンド総括:AIボット、ポスト量子暗号化、DDoS攻撃の激化と考察
2025年も終わりに近づき、Cloudflareが発表した年次レポートは、AI駆動トラフィックの急増、ポスト量子暗号化の急速な普及、そして記録的な分散型サービス拒否(DDoS)攻撃など、インターネットの動向を浮き彫りにしました。本記事では、Cloudflareのグローバルネットワークから収集されたデータに基づき、これらの主要トレンドを詳細に分析します。
グローバルなトラフィック増加と地域ごとの顕著な変動
Cloudflareの年次レビューによると、2025年のグローバルインターネットトラフィックは前年比19%増となり、2024年の17%増をわずかに上回りました。この成長は、特にボツワナのような地域で300%近くの増加が見られるなど、地域ごとに顕著な変動がありました。また、タンザニアにおける政府によるインターネットシャットダウンや、ハリケーン・メリッサによるジャマイカでの通信障害など、現実世界での出来事がトラフィックに影響を与えたことも指摘されています。
Starlinkの拡大がトラフィックを押し上げ
イーロン・マスク氏率いるStarlinkは、グローバルなトラフィック拡大において、予想以上の役割を果たしました。Starlinkのトラフィック量は倍増し、新たに接続された20カ国以上で急増が見られました。
AIボットの急増:インターネットを再定義する存在
2025年の最も顕著なテーマの一つとして、AI駆動の活動が挙げられました。Cloudflareのネットワークでは、GoogleのGooglebotが全てのクローラーの中で最も多くのリクエストを生成し、検索とAIモデルのトレーニングのためにコンテンツを収集しました。AIボット全体では、全HTMLリクエストトラフィックの4.2%を占め、Googlebotの4.5%に迫る勢いでした。
ユーザー行動とAIアシスタントの連携
ユーザーの質問に応答するAIアシスタントの利用拡大に伴い、ボットがウェブサイトを訪問する「ユーザーアクションクローリング」が15倍以上に増加しました。これは、特に学校や職場でのChatGPT利用の増加が牽引した結果です。
Googlebotの圧倒的な情報収集能力
Cloudflareの分析によると、Googlebotは他のどのクローラーよりも圧倒的に多くのコンテンツを閲覧しており、サンプリングされた全ページの11.6%をクロールしました。これは、OpenAIのGPTBotの3倍にあたる数値です。
DDoS攻撃の激化とポスト量子暗号化の普及
セキュリティ面では、改善とエスカレーションの両方が見られました。Cloudflareのシステムは、全グローバルトラフィックの6.2%を緩和し、そのうち3.3%がDDoS攻撃またはWebアプリケーションファイアウォール(WAF)ルールの違反としてブロックされました。特に、「ハイパーボリューメトリックDDoS」攻撃が大幅に増加し、7月にはグローバルな緩和チャートを大きく歪める大規模なキャンペーンが発生しました。
最も攻撃されやすいセクターと巧妙化する脅威
非営利団体、市民団体、宗教団体が最も頻繁に攻撃されるセクターとして特定されました。また、偽装リンクやIDベースの電子メール脅威は、引き続き脅威ランドスケープを支配しました。
ポスト量子暗号化への移行加速
朗報として、2025年にはインターネット暗号化において画期的なマイルストーンが達成されました。全人間生成ウェブトラフィックの52%が、ポスト量子暗号化によって保護されていることが判明しました。これは、エコシステム全体での採用拡大に加え、AppleのiOSアップデートによりデフォルトでハイブリッド量子安全トランスポート層セキュリティが有効になったことが、特定の地域でポスト量子暗号化サポートの即時急増を引き起こしたとCloudflareは分析しています。
インターネット接続の現状とモバイルシフト
一般のオンライン接続性に関して、レポートでは年間174件の大規模な障害が記録され、その半数近くが試験不正防止を目的とした政府によるシャットダウンに起因することが詳述されています。
欧州の接続品質とインドのIPv6普及率
欧州各国が接続品質でトップを記録し、インドは67%の普及率でIPv6導入において世界をリードし続けました。
モバイルデバイスによるトラフィックの過半数占有
モバイルデバイスが117カ国でトラフィックの過半数を生成するようになり、モバイルファーストのインターネット利用への継続的なシフトが浮き彫りになりました。
AIとポスト量子暗号化が牽引する次世代インターネットの到来
Cloudflareの2025年のインターネットトレンドレポートは、AIの急速な進化と、サイバーセキュリティにおけるポスト量子暗号化への移行という、二つの巨大な波がインターネットの未来を形作っていることを明確に示しています。GooglebotがAIモデルのトレーニングのために膨大な量のデータを収集し、ユーザーアクションクローリングが劇的に増加した事実は、AIが情報収集と利用のあり方を根本から変えつつあることを物語っています。これは、コンテンツ制作者やウェブサイト運営者にとって、AIによるアクセスと利用を前提とした新たな戦略の必要性を意味します。
サイバーセキュリティにおける量子時代の幕開け
一方で、DDoS攻撃の激化は、既存のセキュリティ対策の限界を露呈させています。このような状況下で、ポスト量子暗号化への移行が52%に達したことは、将来的な量子コンピュータによる暗号解読リスクへの備えが、もはや待ったなしの課題であることを示唆しています。特にAppleのiOSにおけるデフォルトでの対応は、業界全体の急速な移行を促す触媒となるでしょう。この動きは、金融、医療、政府機関など、機密情報を扱うあらゆる分野におけるセキュリティインフラの抜本的な見直しを迫るものです。
インターネットの分散化とアクセシビリティの未来
Starlinkのような衛星インターネットサービスの拡大や、モバイルデバイスがトラフィックの過半数を占めるという事実は、インターネットアクセスの地理的な制約が薄れ、より多くの人々がデジタル世界に接続できるようになっていることを示しています。しかし、政府によるインターネットシャットダウンは、依然として情報統制や検閲の手段として利用されており、インターネットの自由なアクセスという理想との間で緊張関係が生じています。Cloudflareのレポートは、これらのトレンドを俯瞰することで、私たちが直面する技術的・社会的な課題と、それらがもたらす未来のインターネットの姿を照らし出しています。AIの能力向上と、それに伴うセキュリティリスクの増大、そして量子コンピュータ時代への移行という大きな変革期において、Cloudflareのようなインフラプロバイダーの役割はますます重要になるでしょう。