
ネイティブアメリカンの影響で抽象芸術史を塗り替える:ダイアニ・ホワイト・ホークの革新的な表現
ダイアニ・ホワイト・ホークは、抽象芸術の歴史にネイティブアメリカンの影響を取り戻すべく、その作品を通して新たな視点を提示しています。彼女の最新の大規模回顧展「Dyani White Hawk: Love Language」がミネアポリスのウォーカー・アート・センターで2025年10月18日に開幕。この記事では、ホワイト・ホークの革新的な作品と、彼女がアート界の歴史認識にどのように挑戦しているのかを掘り下げます。
ネイティブアメリカンの創造性と歴史への再定義
伝統の革新と文化の継承
ダイアニ・ホワイト・ホーク(Sičáŋǧu Lakota、1976年生まれ)は、ラクタ族の文化を尊重しつつ、新しい芸術形態と表現を通してその可能性を広げています。彼女の作品は、ネイティブアメリカンが歴史を通じて常に革新を続けてきた事実を反映しています。これは農業、住居、技術、交通手段といった生活のあらゆる側面だけでなく、芸術においても同様です。交易を通じてアメリカ先住民にもたらされたガラスビーズや、南西部のディネ族(ナバホ族)の銀細工師たちの技術は、既存の芸術実践に取り込まれ、伝統の一部として発展してきました。ホワイト・ホークは、「新しい素材が入手可能になるたびに、それらは既存の芸術的実践に組み込まれ、芸術的伝統の一部となるほど繁栄した」と語り、これはラクタ族およびネイティブアメリカンの実践に根ざした、常に周囲の世界を反映する姿勢であると述べています。
芸術史におけるネイティブアメリカンの位置づけ
現代美術の歴史において、ネイティブアメリカンの芸術はしばしば人類学や民族学の対象、あるいは単なる「職人技」として扱われ、ファインアートの領域から周縁化されてきました。これは、作品が機能性を持つことや、主に女性によって制作されたという事実が、入植植民地主義的な視点を持つ研究者やキュレーターによって「ファインアート」の地位から除外される要因となりました。ホワイト・ホークは、この認識に異議を唱え、ネイティブアメリカンの芸術がヨーロッパやアメリカの幾何学抽象絵画と対話し、影響を与えてきたことを強調しています。ピカソのアフリカ美術への言及や、ジャクソン・ポロックのナビホ族の砂絵への関心は、西洋美術史におけるネイティブアメリカン芸術の影響力の証拠ですが、その功績はしばしば西洋の芸術家個人に帰せられ、特定の部族や芸術家へのクレジットは無視されてきました。
「Love Language」展:文化と歓迎の空間
2025年10月18日にウォーカー・アート・センターで開幕する「Dyani White Hawk: Love Language」は、彼女の15年にわたる広範な活動を網羅する約100点の作品を紹介する大規模な回顧展です。この展覧会は、ラクタ族の文化への深い敬意と、来場者をもてなすための工夫が随所に見られます。ギャラリーには、長老たちが利用しやすいように十分な座席や、アーティストがデザインしたファリボー・ウーレン・ミルズやネイティブ所有の衣料品会社Ginewとのコラボレーションによるクッションやブランケットが用意されています。また、アーティストのスタジオチームと協力して開発された触察キットは、訪問者が象牙、ビーズ、その他の素材を体験することを可能にします。ホワイト・ホークは、アートスペースがしばしば専門家以外には威圧的に感じられることを認識し、スタッフがゲストをラクタ語で温かく迎えるためのトレーニングを行うなど、誰もが歓迎されていると感じられる空間づくりを目指しています。
芸術における「教化」と「再文脈化」の重要性
歴史修正主義としての現代アート
ダイアニ・ホワイト・ホークの活動は、現代アートの文脈において、しばしば見過ごされてきたネイティブアメリカンの芸術的貢献を「再文脈化」する試みとして非常に重要です。彼女が指摘するように、ネイティブアメリカンの芸術は、西洋美術史における抽象芸術の発展に影響を与えた「影響源」としてではなく、それ自体が独立した、高度に発展した抽象芸術の伝統として認識されるべきです。これは、単に歴史の記録を訂正するだけでなく、現代アートの批評的言語そのものを拡張する作業でもあります。彼女の作品は、過去の「部外者」であったネイティブアメリカンの視点から、西洋美術史の「中心」に語りかけることで、その中心がいかに偏った基盤の上に築かれていたかを浮き彫りにします。
物質文化と現代芸術の融合
ホワイト・ホークの作品におけるビーズワークやクイルワークといった伝統的なネイティブアメリカンの素材と、大規模な絵画や彫刻といった現代的な形式の融合は、物質文化と現代芸術の境界線を曖昧にし、新たな芸術的価値を創造しています。特に、彼女が10人のビーズ職人を雇用し、その多くが家族であるという事実は、彼女の作品が単なる個人的な表現に留まらず、コミュニティとの繋がりや伝統の継承という側面も持っていることを示唆しています。これは、現代アートがしばしば陥りがちな、抽象的で個人的な探求からの脱却を促し、芸術が社会や文化とどのように結びつくかについての示唆に富んでいます。
文化の包摂と未来への展望
「Love Language」展における歓迎の精神、特にラクタ語での挨拶や、触察キットの導入などは、美術館という空間が持つ権威性や敷居の高さを低くし、より多様な観客を受け入れるための意識的な試みです。これは、芸術が文化間の対話と相互理解を促進する力を持つことを示しています。ホワイト・ホークの作品と展示戦略は、ネイティブアメリカンの芸術を過去の遺物としてではなく、現代社会において力強く生き続ける創造的な力として位置づけ、抽象芸術の歴史と未来を再定義しようとしています。彼女の活動は、芸術界における多様性と包摂の重要性を改めて浮き彫りにし、今後のアートシーンにおける「歴史」の語り方を大きく変える可能性を秘めています。