
米国移住権は富裕層限定の「ロイヤルティプログラム」へ:H-1Bビザ改正の光と影
米国への移住権が、かつての「機会均等」から「富裕層限定のロイヤルティプログラム」へと変貌を遂げようとしています。トランプ政権下で導入されたH-1Bビザ(専門職向けの非移民ビザ)の制度改正は、一般の高度人材申請者には高額な申請料を課す一方、巨額の投資を行った富裕層には優先的な移住ルートを提供するという、二極化された未来を示唆しています。
H-1Bビザ改正の概要と目的
この改正の核心は、従来のH-1Bビザ制度を「ロイヤルティプログラム」のように再構築することにあります。特に注目されるのは、「ゴールドカード」と「プラチナカード」と名付けられた新たなビザカテゴリーの創設です。これらのビザは、一定額以上の投資を行った個人に対し、米国内での居住権への迅速なアクセスや、海外所得に対する税制上の優遇措置といった特典を提供します。商務長官ハワード・ラトニック氏は、この政策を「企業が外国の才能に依存するのではなく、アメリカ国内の労働者を育成することを奨励する」ための措置だと説明しています。しかし、この変更は、これまでH-1Bビザを通じて米国で働き、生活してきた多くのエンジニア、研究者、医療従事者といった高度人材にとって、新たな障壁となる可能性を孕んでいます。
富裕層向けの「ゴールドカード」と「プラチナカード」
「ゴールドカード」は100万ドルの投資で、比較的容易に米国の永住権への道が開かれます。さらに上位の「プラチナカード」は500万ドルの投資を条件に、米国に年間270日まで滞在でき、かつ海外で得た所得に対しては米国の納税義務が発生しないという、極めて有利な条件が付与されます。これらの制度は、明らかに富裕層の米国への移住・滞在を優遇するものであり、従来の「能力主義」に基づく移民政策とは一線を画すものです。
一般申請者への影響:高額な申請料
対照的に、これまで米国で高度なスキルを発揮してきた一般のH-1Bビザ申請者は、以前とは比較にならないほど高額な申請料を支払うことを強いられます。技能労働者向けの申請料がおおよそ215ドルであったのに対し、新たな制度下では申請のためだけに年間10万ドルもの費用が必要になると報じられています。これは、多くの専門職にとって、米国でのキャリア形成の機会を奪いかねないほどの経済的負担となります。
米国の移住政策における「アメリカ・ファースト」の現実
今回のH-1Bビザ制度改正は、トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」という原則を、移民政策にも色濃く反映させたものと見ることができます。一般の申請者には厳しい経済的負担を強いる一方で、富裕層やコネクションを持つエリート層には、特別な待遇と優遇措置を与えることで、事実上、米国の移住権を「高級会員制プログラム」へと変質させているのです。これは、国内産業の保護や自国労働者の雇用創出という名目の下で、経済格差をさらに助長する可能性を指摘されています。
グローバル人材獲得競争への影響
Amazon、Google、Appleといった、H-1Bビザの利用に積極的であった大手テクノロジー企業は、現時点では公式な声明を発表していません。しかし、この大幅な申請料の増加は、各社の採用戦略や人材獲得競争に少なからず影響を与えることは避けられないでしょう。世界中から優秀な人材を惹きつけてきた米国の魅力が、経済的な要因によって損なわれるのではないかという懸念も生じています。
予想される法的課題と今後の展望
この新たな制度に対しては、すでに法的措置を講じる動きも予想されています。反対派は、政権が権限を逸脱しており、富裕層を不当に優遇していると主張するでしょう。今後、この政策が米国の移民制度全体にどのような影響を与え、グローバルな人材獲得競争において米国がどのような立場に置かれるのか、注視していく必要があります。移住権が「ロイヤルティ」によって左右される時代は、米国が求める人材像や、国際社会におけるその役割についての根本的な問いを私たちに投げかけています。