
8万枚の写真が語る1970年代アメリカの公害:EPAの知られざる記録と現代への警鐘
内容紹介
公害記録の始まり
1970年にアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が設立されて間もなく、初代長官ウィリアム・D・ラスカスは、国内の公害問題を視覚的に記録する必要性を認識しました。この構想に基づき、ライター兼フォトエディターのギフォード・D・ハンプシャーが任命され、アメリカが直面する環境問題の証拠を収集するための「Documericaプロジェクト」が立ち上げられました。このプロジェクトは、大恐慌時代にロイ・ストライカーが主導した農業安定局(FSA)の写真プロジェクトに倣って実施されました。
多様な視点からの記録
Documericaプロジェクトには、ボイド・ノートン、アーサー・トレス、ビル・ジレット、リンサ・イーラー、テリー・イーラー、そしてピューリッツァー賞受賞者のジョン・H・ホワイトといった著名な写真家たちが参加しました。彼らは、産業廃棄物、大気汚染、河川の汚染、鉱山開発による景観破壊など、アメリカ全土にわたる多様な公害問題を捉えました。中には、石炭火力発電所からの煙が宇宙から見えるほどであったという証言や、海からでも確認できるほどの煙突が写った写真も含まれています。
プロジェクトの終焉と近年ので再評価
1973年の石油危機、ベトナム戦争、公民権運動といった当時の社会情勢の変化により、環境問題への関心は次第に薄れていきました。それに伴い、Documericaプロジェクトは1977年に終了し、その存在は忘れ去られかけていました。しかし近年、ドキュメンタリー映画「The Documerica Project — Environmental destruction in 80,000 photos」が公開されたことで、この貴重なアーカイブが再び注目を集めています。この映画は、当時の写真家たちの証言を交えながら、プロジェクトの意義を改めて伝えています。
過去の記録から学ぶ、現代への教訓
記録から教訓への転換
Documericaプロジェクトは、単に過去の公害問題を記録したにとどまらず、現代社会が直面する環境問題に対する警鐘としての意味合いも持ち合わせています。写真家たちが捉えた汚染とその人間への影響、そして劣化した都市景観や郊外の広がり、自動車文化の浸透といった写真は、公害問題の根底にある社会構造や価値観の課題を浮き彫りにしています。
失われかけた意識の喚起
「Documericaは、浄化される前の公害を示す『ビフォー写真』だった」という写真家リンサ・スコット・イーラーの言葉は、このプロジェクトの本質を的確に表しています。気候変動やプラスチック汚染といった地球規模の環境問題が深刻化する現代において、1970年代のこれらの写真を再検証することは、過去の過ちから学び、持続可能な未来を築くための意識を改めて喚起する重要な機会となります。
写真の力と未来への継承
このプロジェクトで撮影された8万枚以上の写真は、現在も国立公文書館やEPAを通じて閲覧可能です。これらの写真は、公害の現実を視覚的に訴えかけ、人々に環境問題への関心を抱かせる力を持っています。ドキュメンタリー映画やメディアによる再発掘は、これらの貴重な記録を次世代に継承し、環境保護への取り組みを継続していくことの重要性を示唆しています。