「ピリオン」：アレクサンダー・スカルスガルドとハリー・メリングが描く、BDSMロムコムの意外な深層

ハリー・ライトン監督の長編デビュー作『ピリオン』は、アレクサンダー・スカルスガルドとハリー・メリングが演じる、スリルに満ちたサブドム（従属・支配）ロマンスを描きながら、セクシュアリティに対する型破りな視点を提示しています。元記事のインタビューによると、ライトン監督は自身の初期短編映画を通じて、現実で試すにはまだ勇気が持てなかった自身のセクシュアリティを探求してきたと語っています。この新作は、アダルトなテーマを扱いながらも、読者の好奇心を刺激し、人間関係や自己発見についての深い問いを投げかけます。

『ピリオン』の物語とその魅力

型破りな関係性の描写

本作は、アダム・マース＝ジョーンズの小説『Box Hill』を原作としており、真面目な交通監視員のコリン（ハリー・メリング）と、経験豊富なサブ（従属役）を探している屈強なバイカーのレイ（アレクサンダー・スカルスガルド）との間に形成される、甘さと刺激が入り混じった関係性を追います。レイの嗜好には、コリンを家僕のように扱い、寝室の床で眠らせるといった、一見すると抵抗を感じさせるものも含まれます。しかし、コリンは「献身的な適性」を持ち、当初は喜んでその役割を果たします。

ジャンルを超えたトーン

『ピリオン』は「サブドム・ロムコメ」と評されることもありますが、その展開はリチャード・カーティス監督作品のリズムを思わせる一方で、ブーツ舐めやバイカーの乱交といった要素も含まれています。ライトン監督は、観客がこれらのキャラクターを応援すべきなのか、それともコリンがさらに屈辱的な状況に陥るのを目の当たりにして愕然とすべきなのか、その判断を委ねるような曖昧さを意図したと述べています。観客の反応は様々で、レイを嫌悪する声もあれば、自身の性やロマンスに対する欲求について考えさせられたという声もあります。

『ピリオン』が提示する、セクシュアリティと人間関係の本質

映画におけるセックスシーンの革新性

本作のセックスシーンは、近年の映画の中でも特に面白く、官能的であると評価されています。これらのシーンは、キャラクターの性的な欲求だけでなく、より深い願望をも表現しています。ライトン監督は、アンドリュー・ヘイ監督の『Weekend』から、映画におけるセックスシーンの表現の可能性について早期に洞察を得たと語っており、セックスが単なるクライマックスではなく、感情的なハイライトにもなり得るという考えを自身の作品に取り入れています。

原作からの大胆な変更とキャスティングの妙

ライトン監督は、原作の持つ不安定なトーンを再現することに成功していますが、いくつかの重要な変更も加えています。最も顕著なのは、時代設定を1970年代から現代に移したことです。また、原作で18歳だったコリンを、現代的な設定に合わせて30代のシャイな男性に変更しました。これにより、ハリー・ポッターシリーズで知られるハリー・メリングを、繊細で感情の起伏が激しいコリン役として起用することが可能になりました。メリングの表現力豊かな顔は、キャラクターの感情を過剰に演じることなく、観客に共感を呼び起こします。一方、アレクサンダー・スカルスガルド演じるレイは、単なる「イケメン」という表面的な魅力だけでなく、その行動に複雑な人間性が垣間見えます。スカルスガルドは、『キング・オブ・メディア 欲望のメディア』でのルカス・マッソン役で見せた、権力や影響力を巧みに操るニュアンスをレイ役にもたらしました。

俳優たちの貢献と映画のメッセージ性

スカルスガルドは、その表面的な魅力とは裏腹に、キャラクターに深みを与えています。特に、LGBTQ+の役柄を演じる際に、しばしば見られるぎこちなさとは対照的に、彼は『ピリオン』のクィアな側面を、自身のアイデンティティやセクシュアリティを過度に意識することなく、自然に祝福しているように見えます。ライトン監督は、スカルスガルドが「他人が彼や彼のセクシュアリティについてどう思うか、全く気にしない」という、素晴らしい、そして新鮮な姿勢を持っていることを称賛しています。この姿勢は、俳優が自身のセクシュアリティを公言することなく、多様なキャラクターを自然に演じることの重要性を示唆しています。