
スタジオジブリの世界を彩る背景美術:武重洋二氏が語る「湿度」と「現実味」が生み出す魔法
『Painting the Worlds of Studio Ghibli』は、スタジオジブリの長年にわたる背景美術の粋を集めた、500ページに及ぶ待望の書籍です。本作では、アートディレクターであり背景アーティストでもある武重洋二氏が、作品に深みを与える「湿度」の表現や、現実と非現実の境界線を探る制作プロセスについて語っています。本記事では、武重氏のインタビューに基づき、ジブリ作品の背景美術が持つ独特の魅力とその秘密に迫ります。
ジブリ作品の背景美術に迫る
武重洋二氏のキャリアとジブリへの道のり
武重洋二氏は、幼少期から映画に魅了され、高校時代には国内外の巨匠たちの作品に影響を受けました。美術大学在学中に偶然アニメーション会社の求人を見つけ、そこで「背景」という仕事を知ります。最初の会社は短期間で閉鎖しましたが、その後ガイナックスで『王立宇宙軍 オル 鉄の 翼』の背景制作に携わり、やがてスタジオジブリの『となりのトトロ』の背景美術を担当することになりました。その後、アートディレクターとして『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』など、数々の名作を手がけています。
背景美術における「湿度」と「光」の重要性
武重氏は、ジブリ作品の背景美術に「湿度」の概念が重要であると語ります。屋内でも屋外でも、空気の湿度、光の広がり方、遠近感などが、シーンの雰囲気を創り出す上で不可欠な要素となります。これらの要素を丁寧に描写することで、観る者に馴染みのある、しかしどこか不思議な感覚を与える情景が生まれます。
「日常」と「非日常」の融合
スタジオジブリ作品、特に宮崎駿監督の作品における背景美術は、現実には存在しない世界を描きながらも、観たことのある風景の集積であると武重氏は説明します。監督からは「馴染みのある風景にしてほしい」という指示があり、それは単なるノスタルジーではなく、「そこに住む人々の営み」を描くというテーマに根差しています。観客が初めて目にする風景に親近感を覚えること、それがジブリ作品の「魔法」であり、テリー・ギリアム監督の作品にも通じる哲学だと述べています。
ジブリ背景美術の秘密と今後の展望
伝統的な制作プロセスへのこだわり
近年の作品でも、宮崎監督作品の制作プロセスは、監督のイメージボードや絵コンテから始まり、色彩や雰囲気が決定されていくという基本は変わっていません。『耳をすませば』などの例外を除き、ほとんどの背景美術は、現在でも紙に絵の具で描かれています。この伝統的な手作業へのこだわりが、作品に独特の温かみと質感を加えています。
武重氏が影響を受けた監督と作品
武重氏が自身の制作において、ジブリ作品の「魔法」と共通する哲学を感じる監督として、テリー・ギリアムの名前を挙げています。また、自身が最も楽しく制作に携わった作品として、ジブリ美術館とジブリパークで上映されている『Mr. Dough and the Egg Princess』を挙げています。この作品では、色彩を多用することができ、キャラクターたちがその世界で「日常」を生きている様子を表現することにやりがいを感じたと語っています。
デジタル時代における背景美術の役割
現代ではCG技術が発展していますが、スタジオジブリは依然として手描きの背景美術を重視しています。武重氏の長年の経験と「湿度」や「光」といった感覚的な要素へのこだわりは、デジタルでは表現しきれない、観る者の心に深く響く情景を生み出しています。今後も、このような職人的な技術と感性が、アニメーションの表現を豊かにしていく上で重要な役割を果たすと考えられます。