欧州では禁止、米国では蔓延―「ジクワット」という名の猛毒除草剤の危険性

欧州では禁止、米国では蔓延―「ジクワット」という名の猛毒除草剤の危険性

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米国では、ポテト畑から湖、さらには郊外の歩道脇の雑草に至るまで、あらゆる場所でジクワットという除草剤が使用されています。環境保護庁(EPA)によって承認されているこの即効性のある除草剤は、農家や家庭菜園家にとって手軽な選択肢となっています。しかし、その広範な使用による健康被害や環境破壊に関する科学的研究が、近年増加の一途をたどっています。欧州連合(EU)、英国をはじめとする多くの国々がジクワットを禁止しているにもかかわらず、なぜ米国では依然として広く使用されているのでしょうか。本記事では、ジクワットの危険性と、その使用を巡る日米欧の規制の違い、そして今後の展望について解説します。

ジクワット:欧州では禁止、米国では現役の猛毒除草剤

ジクワットの広範な使用実態

ジクワットは、収穫前のジャガイモ、大豆、綿花などの乾燥剤として、また湖や河川における外来水生植物の駆除、果樹園やブドウ園の雑草管理、さらには一般的な雑草防除にと、米国全土で幅広く利用されています。その毒性にもかかわらず、米国の主要な小売店で販売されている家庭用除草剤にも含まれており、一般消費者が容易にアクセスできる状況にあります。

危険な二重基準:国際的な規制と米国の現状

欧州における禁止措置とその背景

欧州委員会は2019年、欧州食品安全機関(EFSA)がジクワットの使用者、居住者、鳥類に対する高いリスクを結論付け、必要な安全基準を満たしていないと判断したことから、ジクワットの使用を禁止しました。国際的なレビューで重大な懸念が指摘されているにもかかわらず、米国のEPAは2002年以降、ジクワットの使用に関する同等の再評価を実施していません。

米国における規制の遅れと業界の影響

ジクワットが米国でこれほど普及している背景には、規制の抜け穴、業界の影響力、そして国際的な安全基準の不均一性が複雑に絡み合っています。禁止措置を講じた国々でさえ、ジクワットの製造・輸出を続けており、その毒性による健康被害や生態系への影響は、グローバルな食料システムにおける政府や大企業の偽善を浮き彫りにしています。

グリホサートに代わる「危険な代替品」としての台頭

近年、モンサント(現バイエル)の除草剤「ラウンドアップ」に含まれるグリホサートに対する発がん性への懸念が高まる中、ジクワットは農業分野および一般家庭用製品において、代替除草剤として注目を集めています。バイエルは2023年に、一部のラウンドアップ製品の処方を変更し、グリホサートの代わりにジクワットジブロミドなどの代替有効成分を配合した製品を米国市場で展開しています。Friends of the Earth(FOE)の2024年の分析によると、ジクワットはグリホサートと比較して慢性曝露における毒性が200倍高いとされています。この新しい処方により、長期的曝露におけるヒトの健康へのリスクが平均で45倍増加する可能性が指摘されています。

ジクワットの健康と環境への影響

人体への健康リスク

ジクワットへの長期または反復的な低レベル曝露は、臓器損傷、生殖機能への悪影響、さらには神経毒性や発がん性、パーキンソン病との関連性が示唆されています。2025年5月に『Frontiers in Pharmacology』誌に掲載された研究では、ジクワットが免疫機能や栄養吸収に重要な役割を果たす腸管バリアを損傷する可能性が示されました。動物実験では、パラコート(ジクワットと構造・機能が類似する高毒性化学物質)曝露に似た酸化ストレスや脳細胞への損傷が示唆されていますが、この分野はさらなる研究が必要です。

生態系への長期的損害

ジクワットは、土壌の健康、水生生態系、野生生物にも悪影響を及ぼします。土壌粒子に容易に吸着され、移動性は低く分解も遅いとされていますが、その分解生成物が水生生物に二次的な毒性をもたらす可能性や、環境中の生物に長期的な脅威を与える可能性が指摘されています。水域での急性曝露は毒性を引き起こし、水生生物に蓄積されることで、それらに大きな負担を与える可能性があります。

規制の壁と代替策:より安全な未来への道筋

輸出されるリスク:規制の抜け穴と企業の責任

ジクワットの使用が継続される一因には、強力な業界団体と不均一な国際規制が存在します。特に、世界最大級の農薬企業であるシンジェンタは、ジクワットの世界的な生産、マーケティング、継続的使用において中心的な役割を担っています。シンジェンタはEUでの禁止後も、規制が緩やかな国々へジクワットを輸出し続けており、これは高規制市場から有害物質をシフトさせながらグローバルな利益を維持する、農薬業界における広範な傾向を浮き彫りにしています。

持続可能な農業への転換

ジクワットのような化学物質への依存を減らすため、総合的病害虫管理(IPM)や総合的雑草管理(IWM)といった、より安全で持続可能な農法への関心が高まっています。これらのアプローチは、文化的、機械的、生物的、そして限定的な化学的手段を組み合わせることで、収量を維持しながら除草剤への依存を減らす効果的な戦略として注目されています。また、再生農業やアグロエコロジーといったモデルは、化学物質なしで収穫量を維持できる可能性を示していますが、多くの農家は、高コスト、設備へのアクセス制限、トレーニング不足などの障壁に直面しています。

家庭菜園と消費者のできること

家庭でのジクワット曝露を減らすためには、より安全な代替品の選択が重要です。酢ベースの除草剤、クローブオイルやクエン酸ベースのスプレー、トウモロコシグルテンミール(発芽した雑草の根の形成を阻害する)、あるいは熱湯や炎を使った除草などが効果的です。また、オーガニック認証を受けた製品を選んだり、化学物質を使用しない、または低投入量の栽培方法を採用する地域農家を支援することも、より安全な食品システムへの貢献となります。

ジクワットを巡る問題は、農薬の安全性に関するグローバルなコンセンサスの緊急の必要性を示しています。公衆衛生、生態系の保全、そして長期的な食料安全保障を優先するアプローチが求められています。そのためには、化学メーカーの透明性、政策立案者による大胆な行動、そして消費者の意識向上が不可欠です。持続可能な農業への投資、農家への安全なツールの提供、そして私たちの環境と生活を形作る化学物質に対する産業と政府の責任追及が、より良い未来への道を開く鍵となるでしょう。

画像: AIによる生成