NvidiaからAWSへ:遺伝子治療スタートアップがAIコストを56%削減した秘密

NvidiaからAWSへ:遺伝子治療スタートアップがAIコストを56%削減した秘密

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遺伝子編集技術スタートアップのMetagenomiは、AWSのInferentia 2アクセラレータを採用することで、AIによる新薬発見のプロセスにおけるコストを56%削減することに成功しました。これは、Nvidia製GPUからAWSのカスタムチップへの切り替えによって達成されたもので、高性能ハードウェアへの巨額投資が常に最善の選択肢ではないことを示唆しています。

遺伝子編集とAIによる新薬発見の最前線

Metagenomi社の挑戦:CRISPR技術とAIの融合

2018年に設立されたMetagenomiは、ノーベル賞を受賞したCRISPR技術を基盤に、遺伝子レベルでの疾患治療を目指すスタートアップです。同社は、疾患の原因そのものにアプローチする遺伝子編集を「新たな治療法」と位置づけ、その可能性を追求しています。

AIによる酵素探索の効率化

遺伝子治療に不可欠な「酵素」を発見するため、Metagenomiはプロテイン言語モデル(PLM)であるProgen2などの生成AIを活用しています。これにより、膨大な数の候補酵素配列を迅速に生成し、その中から最適なものを見つけ出すプロセスを劇的に効率化しています。VP of DiscoveryのChris Brown氏は、「百万に一つのものを見つけ出す」作業において、候補数を増やすことが成功確率を高めると述べています。

Nvidia GPUからAWS Inferentia 2への移行

Metagenomiは、以前はNvidiaのL40S GPUでProgen2を実行していましたが、AWSのInferentia 2アクセラレータと比較評価を実施しました。Progen2のベースモデルは約8億パラメータと、近年の大規模言語モデルと比較して小規模であり、Inferentia 2のようなメモリ帯域幅に最適化されたチップでの実行に適していました。

コスト削減のメカニズム

Nvidia L40S GPUは、Inferentia 2よりも高い理論性能を持ちますが、AWSはInferentia 2とAWS Batch、そしてスポットインスタンスを組み合わせることで、運用コストを大幅に削減できると主張しています。AWSのビジネス開発責任者であるKamran Khan氏は、スポットインスタンスがオンデマンドインスタンスよりも約70%安価であり、ワークフローを最適化することで、24時間体制での実験実行が可能になったと説明しています。さらに、Inferentia 2のスポットインスタンスはNvidia製GPUと比較して割り込み率が低く、実験の継続性が高まるという利点もあります。

AIアクセラレータ選定における戦略的思考の重要性

「速さ」より「効率」:コストパフォーマンスの高い選択肢

Metagenomiの事例は、AIワークロード、特にインタラクティブ性が低いタスクにおいては、常に最新かつ最速のハードウェアを選択することが最適解ではないことを示しています。AWSのInferentia 2のような、特定のワークロードに最適化され、コスト効率を重視したアクセラレータは、Nvidiaの高性能GPUに匹敵する、あるいはそれ以上の価値を提供する可能性があります。AWSのスポークスパーソンは、Metagenomiが年間プロジェクトとしていた課題を、Inferentia 2の活用により「1日に何度も、あるいは週に何度も」実行できるようになったと述べており、科学的発見のペースを加速させるインパクトを強調しています。

クラウドインフラの柔軟性とコスト最適化の未来

この事例は、クラウドインフラストラクチャの柔軟性を活用し、ワークロードの特性に合わせて最適なコンピューティングリソースを選択することの重要性を示唆しています。AWSは、Inferentia 2とスポットインスタンス、AWS Batchといったサービスを組み合わせることで、ユーザーに大幅なコスト削減と効率向上を提供できることを証明しました。今後、多くの企業が同様のアプローチを採用し、AI開発におけるコスト障壁を低減させることが期待されます。これは、特にリソースが限られているスタートアップ企業にとって、革新的な研究開発を推進する上で大きな恩恵となるでしょう。

AI時代におけるアクセラレータ戦略の進化

MetagenomiとAWSの連携は、AIアクセラレータの選定が単なるスペック競争ではなく、コスト、効率、そしてワークロードの特性を総合的に考慮した戦略的判断へと進化していることを示しています。NvidiaがGPU市場で支配的な地位を築いていますが、AWSのようなクラウドプロバイダーが独自開発したAIチップが、特定のユースケースにおいては強力な代替となり得ることを証明しました。この流れは、AIインフラ市場における競争をさらに激化させ、最終的にはAI技術全体の発展を加速させる可能性を秘めています。

画像: AIによる生成