
デザイナー過剰時代の処方箋:教育改革からキャリア戦略まで、未来を切り拓くための提言
英国ではデザイン関連の高等教育課程に18万人以上もの学生が在籍し、デザイン分野への関心の高まりを示しています。しかし、大手ブランドが確立されたデザイナーとのみ取引する傾向や、新卒デザイナーが作品を発表する機会の少なさが、卒業後の市場における受け入れ体制への疑問を投げかけています。本記事では、この「デザイナー過剰時代」とも言える状況を分析し、教育システム、キャリア形成、そして業界全体の変革に向けた提言を探ります。
デザイナー過剰の現実と背景
応募者殺到の厳しい現実
デザインスタジオ「Layer」の創設者ベンジャミン・ヒューバート氏によると、求人には常に約500件もの応募があるといいます。これは、独立したデザインスタジオの採用倍率が500分の1という、極めて競争の激しい現実を示しています。
コレクティブルデザインという選択肢とその課題
限られた職務機会のため、多くのデザイナーは自身の会社を設立する道を選びます。特に近年注目されているのが、ギャラリー展示や販売を目的とした一点物の「コレクティブルデザイン」の制作です。しかし、デザインプラットフォーム「Slancha」の共同設立者ファインディ・マクドナルド氏は、これらの作品を適切な発表の場に届けることの難しさを指摘。既存のギャラリーは実績のあるデザイナーを優先する傾向があり、新進デザイナーへの投資にはリスクが伴うというジレンマが生じています。
高価格帯と市場へのアクセシビリティ
小規模生産のデザイナーズピースは、人件費、素材費、工具費などを考慮すると、必然的に高価格帯になります。Slanchaの共同設立者ハーベイ・エバーソン氏によると、一点の椅子でも3,000ポンド(約55万円)に達する可能性があり、これは一般的な消費者が購入するには手の届きにくい価格帯です。
恵まれない出自への言及と教育システムへの疑問
新進デザイナーのReianna Shakil氏は、卒業後4年間、専門スキルに合った職を見つけられていないと語ります。また、業界には、実家が工房として使える、あるいは経済的な支援を受けられるなど、「恵まれた背景」を持つ人材が多いという現状にも触れています。プロダクトデザインエージェンシー「Morrama」の創設者Jo Barnard氏は、デザインコースの数と、それらが業界と十分に連携していない点を問題視し、「デザイナーが多すぎる」という見解を示しています。多くのデザイナーが、大学での教育が実社会での業務準備に不十分だと感じています。
今後の展望と業界への提言
インターンシップと実践的スキルの重要性
Benjamin Hubert氏は、デザインを学ぶ全ての学生が実践的なスキルを試せるインターンシップを経験すべきだと主張します。特に2年次と3年次の間にインターンシップを経験した学生は、業界への理解度やスキルの面で格段に向上し、就職に有利になると指摘しています。
ビジネススキルの育成と自己起業という選択肢
Reianna Shakil氏は、大学がビジネススキル教育に不十分であることを指摘し、自身が起業した経験からその重要性を痛感しています。「もし誰も私を雇ってくれないなら、自分で会社を立ち上げよう」という考えでStudio ZRXを設立した彼女は、大学で学べなかった実践的なスキルを独学で習得しました。
デザイン業界の自己認識の変化とグリーン・スキルへの対応
Benjamin Hubert氏は、デザイン業界自体の自己認識の変化も必要だと提言。1960年代、70年代の古いモデルに固執せず、現代のプレッシャー、ツール、そしてデザインが意味することの広がりとともに進化する必要があると述べています。Design CouncilのCEOであるMinnie Moll氏は、デザイナーが多すぎるという意見には反対しつつも、業界が若手人材をどのように受け入れているかについて多くの疑問があることに同意。特に、2025年の課題に対応するための環境に配慮したデザインスキル(71%のデザイナーが需要増を認識するも、43%しか対応できていると感じていない)の習得が急務であると指摘しています。
デザイン教育の普遍的な価値と未来への投資
一方で、デザイン教育の価値は依然として高いと強調する声もあります。Catharine Rossi氏は、デザインの学位取得が必ずしもデザイナーとしてのキャリアに直結する必要はなく、ライティング、キュレーション、政策立案、出版など、デザイン的思考が役立つ多様な分野でその能力を発揮できると述べています。Minnie Moll氏は、デザインは未来を形作る重要な役割を担っており、若者がこの分野を追求することを奨励すべきだと締めくくっています。