
夜間光データでスペインの地域格差を可視化:公式統計では捉えきれない経済的不平等の実態
現代社会が直面する経済格差、特に地域間の格差は年々深刻化しており、その正確な把握は喫緊の課題です。タイムリーで信頼性の高いデータが不可欠となる中、本研究はスペインを対象に、夜間光(NTL)データが地方行政単位レベルでの経済格差の代理指標として機能するかどうかを検証しました。
夜間光データが示すスペインの経済格差
スペインは欧州連合(EU)の中でも経済格差が大きい国の一つです。本研究では、VIIRS(米国標準衛星)とHarmonized NTL(統合夜間光)の2つのリモートセンシング製品にWorldPopの人口データを組み合わせ、ピクセルごとの「人口一人当たりの夜間光量」を算出しました。これにより、各自治体内のジニ係数を詳細に推定することが可能になりました。分析の結果、夜間光から推定されたジニ係数と公式の所得に基づくジニ係数との間には、統計的に有意な関連性が認められました。特に、小規模な集落や農村部において、この関連性が顕著でした。パネルデータモデルを用いた分析では、単年度の分析よりも経年変化を捉える能力が高いことが示唆され、夜間光データが格差の経時的な変化を捉える可能性が浮き彫りになりました。
公式統計では見えにくい格差の存在
注目すべきは、公式の所得統計では低い格差しか示されていない地域において、夜間光データからは高い格差が示唆されるケースが確認されたことです。これは、失業率が高い地域やインフォーマル経済(非公式経済)が活発な地域でしばしば見られました。このような地域では、夜間光データが公式の所得統計には十分に反映されない格差を捉えている可能性があり、経済格差の補完的な指標となり得ることを示唆しています。
夜間光データ活用の将来性と課題
本研究は、夜間光データが、データが豊富な先進国だけでなく、データが不足している地域においても、経済格差を監視するためのスケーラブルで低コスト、かつ世界的に再現可能なツールとなる可能性を示しました。特に、地方行政単位スケールでの詳細な社会経済状況のモニタリングにおいて、その有用性が期待されます。
今後の展望と研究の限界
精度向上のためには、都市形態、インフラ、人口統計などの追加的な空間レイヤーとの統合が期待されます。また、インフォーマル経済やインフラ整備における格差を夜間光データがどのように反映しているかの詳細な分析が必要です。本研究の限界としては、WorldPop人口推定データとの共線性、VIIRSのセンサー飽和やHarmonizedデータの解像度の問題、そして公式所得データ自体の限界が挙げられます。これらの限界を克服するため、将来的には、代替的な人口データセットの利用、追加の地理空間データの統合、機械学習技術の導入、そして現地調査による検証などが推奨されます。さらに、空間的隔離や都市形態がNTLの効果に与える影響を検討することも、今後の重要な研究課題となります。
夜間光データは、経済格差の理解を深めるための強力な新たな視角を提供します。今後、さらなる研究とデータ統合により、より精緻で包括的な社会経済モニタリングが可能になるでしょう。