黄金の便器「アメリカ」、オークションハウス・サザビーズで10億円超の価値で競売へ

イタリアのアーティスト、マウリツィオ・カテランによる金無垢の便器「アメリカ」が、11月18日にニューヨークで開催されるサザビーズのオークションに出品されることが発表されました。この作品の開始価格は、使用されている金の重量に基づくものですが、現在約1000万ドル（約15億円相当）と推定されています。かつてグッゲンハイム美術館に展示され、2019年には英国のブレナム宮殿から盗難にあったこの作品は、サザビーズによって「芸術制作と商品価値の衝突に対する鋭い批評」と評されています。

黄金の便器の軌跡と意義

芸術作品から盗難された宝物へ

金無垢の便器「アメリカ」は、その挑発的な作品で知られるアーティスト、マウリツィオ・カテランによって2016年に制作されました。当初はグッゲンハイム美術館のトイレに設置された、機能するアートインスタレーションとして公開され、10万人以上の来場者がこの作品に触れる機会を得ました。その後、英国のブレナム宮殿で展示された際に、2019年に泥棒によって盗難されました。窃盗犯は配管から便器を強制的に取り外し逃走しました。この事件に関連して2人が有罪判決を受けましたが、便器は回収されておらず、溶かされてしまったと推測されています。

富と価値への批評

カテラン自身は、「アメリカ」が過剰な富を風刺することを意図していると述べており、「200ドルのランチでも2ドルのホットドッグでも、結果はトイレにおいては同じだ」とコメントしたことがあります。サザビーズは、この作品を、壁にテープで貼り付けられたバナナで620万ドルで落札されたカテランの有名なコンセプチュアルアート「コメディアン」とは対照的に、「アメリカ」は素材の特性から多くの内在的価値を持っていると指摘しています。これにより、原材料と芸術的アイデアの価値の比率という興味深い問いが提起されています。

便器を超えて：このオークションが示唆するもの

商品としての芸術：ますます曖昧になる境界線

カテランの黄金の便器のオークションは、現代アート市場における芸術と商品としての関係性の複雑さを浮き彫りにしています。開始価格が素材の価値に直接結びついている「アメリカ」は、コンセプトやアーティストの評価が物理的な実体を上回ることが多い、従来の芸術評価の概念に挑戦しています。この作品は、その価値が芸術的功績にあるのか、素材としての価値にあるのか、それとも富の不平等に対する大胆な批評にあるのか、という議論を提起しています。

挑発者の揺るぎない魅力

マウリツィオ・カテランは、その芸術で常に限界を押し広げており、「アメリカ」も例外ではありません。オリジナルの作品が盗難され、その後にサザビーズでオークションにかけられるという展開は、その物語性と魅力にさらなる深みを与えています。機能するアート作品から大胆な盗難事件の標的へと至ったこのセンセーショナルなライフサイクルは、その文化的アーティファクトとしての地位をさらに高めています。サザビーズでは、来場者は展示された便器を「見る」ことはできても「使用する」ことはできないという点も、この作品の象徴的な機能性を際立たせ、その挑発的な性質に拍車をかけています。