ヘイル・ウッドラフの「地下鉄道」:アメリカ美術史の傑作、オハイオへの旅路

ヘイル・ウッドラフの「地下鉄道」:アメリカ美術史の傑作、オハイオへの旅路

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アメリカ美術史における4つの重要な作品が、80年以上にわたる故郷であるタラデガ・カレッジを離れ、より広く国民に共有されることになりました。アラバマ州の小さなリベラルアーツカレッジであるタラデガ・カレッジは、1930年代にヘイル・ウッドラフによって制作された6つの巨大な壁画のうち4つを売却する契約を結びました。これらの作品は、20世紀初頭に人種差別により主流のアートシーンから排除されていたアフリカ系アメリカ人アーティストたちを支援したHBCU(Historically Black Colleges and Universities)の歴史を反映しており、貴重な芸術遺産として高く評価されています。

2000万ドルの収益、カレッジの未来を支える

この歴史的な作品群は、トレド美術館、アート・ブリッジズ財団、そしてテラ・アメリカン・アート財団によって約2000万ドルで取得されました。アート・ブリッジズ財団は、ウォルマートの相続人であるアリス・ウォルトンからの資金提供を受けています。この売却益は、カレッジの基金を増強し、運営費用を支援するために活用されます。COVID-19パンデミック以降、タラデガ・カレッジの入学数は減少し、回復には至っていません。高等教育が厳しい状況に置かれる中、カレッジは将来の存続を確実にするために、この収益を重要な経営資源として活用します。

新たな所有者と作品の未来

デル・リオ|バイアーズ・アート・アドバイザリーの支援により、アミスタッド号の反乱とその余波を描いた3つの絵画はアート・ブリッジズとテラ・アメリカン・アート財団によって共同取得されました。中でも最大級の「アミスタッド号の囚人の裁判」(1939年)は20フィート以上に及びます。一方、「地下鉄道」(1942年)はトレド美術館が取得しました。タラデガ・カレッジの設立とサベリー図書館の建設を描いた残りの2作品は、引き続きカレッジが所有し、キャンパス内で展示される予定です。

「地下鉄道」に込められた自由への渇望

ヘイル・ウッドラフの「地下鉄道」は、南部での奴隷制から逃れ、自由を求めて北へと向かう人々を描いています。作品には、奴隷州であるケンタッキー州から自由州であるオハイオ州へと続くオハイオ川を渡ろうとする人々が描かれており、ウッドラフは「州境–オハイオ、0.5マイル」という文字と、川の方向を指し示す手を描き、希望への道を示唆しています。遠くに見える蒸気船は、オハイオ川を暗示していると考えられています。

トレド美術館における「地下鉄道」の展示意義

トレド美術館の館長兼CEOであるアダム・M・レヴィン氏は、この作品がトレドのアフリカ系アメリカ人コミュニティにとって深い意味を持つと述べています。トレド自体が地下鉄道の重要な経由地であり、現在も歴史的な家屋が残されています。また、アメリカ合衆国憲法修正第13条(奴隷制廃止)の起草者の一人であるジェームズ・アシュレーもトレド出身であり、この作品は地域の歴史と深く結びついています。

芸術的卓越性の追求

レヴィン氏は、アフリカ系アメリカ人アーティストやテーマの作品収集を重視する一方で、今回の取得はアイデンティティよりも「卓越性」に基づいていると強調します。「品質こそが最も平等な概念です。どこから来たか、どのような見た目かは関係ありません。素晴らしいものは素晴らしいのです。ウッドラフの『地下鉄道』は、まさに傑出した絵画です。」とレヴィン氏は語ります。ニューヨーク・タイムズの美術評論家ロバータ・スミスも、この作品を1930年代から40年代のアメリカン・リアリズムと壁画芸術の「最高傑作」の一つと評しており、その芸術的価値は高く評価されています。

考察:美術史における「地下鉄道」の再評価

ヘイル・ウッドラフの「地下鉄道」がタラデガ・カレッジからトレド美術館へと新たな場所を得たことは、単なる作品の移動以上の意味を持ちます。これは、アメリカ美術史におけるアフリカ系アメリカ人アーティストの貢献を再認識し、その作品をより広い層に届けるための重要な一歩と言えるでしょう。HBCUが長年果たしてきた、排除されたアーティストたちのためのセーフヘブンとしての役割は、今なお現代美術の文脈においても重要であり続けています。この作品の売却は、カレッジの財政的安定に貢献すると同時に、アメリカ国内の美術館ネットワークを通じて、より多くの人々がこの傑作に触れる機会を創出します。それは、美術作品が持つ教育的・歴史的価値を、時代を超えて継承していくための現代的なアプローチを示唆しています。今後、トレド美術館での展示や、さらなる巡回展などを通じて、「地下鉄道」が描く自由への道のりが、より多くの人々の心に響くことが期待されます。

画像: AIによる生成