AI vs. 人間：栄養知識でChatGPTは管理栄養士に匹敵するのか？

現代社会は、情報過多で時に矛盾する食に関するアドバイスに溢れています。このような状況下で、人々が情報に基づいた食生活を送り、食事に関連する生活習慣病を管理するためには、栄養の基本原則を理解することが不可欠です。人工知能（AI）が栄養情報提供においてますます重要な役割を果たすようになっていますが、その信頼性はまだ十分に確立されていません。本記事では、最新のAIチャットボットと、栄養学を学ぶ学生および一般の人々の栄養知識を比較分析した研究結果を紹介し、AIの栄養分野における可能性と限界を探ります。

AIは栄養知識において人間とどの程度渡り合えるのか？

AIの総合的な栄養知識

「一般栄養知識質問票–改訂版（GNKQ-R）」を用いた調査では、ChatGPT-3.5、ChatGPT-4、Google Bard（現Google Gemini）、Microsoft Copilotといった4つの大規模言語モデル（LLM）が、栄養学を学ぶ学生や一般の人々と比較されました。その結果、AIシステム全体の平均パフォーマンスは88点満点中77.3点であり、これは栄養学を学ぶ学生の知識レベルに匹敵し、英語を学ぶ学生を大きく上回るものでした。特にChatGPT-4は82点を獲得し、栄養学を学ぶ学生（79.3点）、英語を学ぶ学生（67.7点）、その他の人口統計グループを上回りました。

セクションごとのAIのパフォーマンス

「食事の推奨事項」セクションでは、ChatGPT-3.5とChatGPT-4は栄養学を学ぶ学生と同等のパフォーマンスを示しました。一方、「食品群」においては、ChatGPT-4が36点満点中33点を獲得し、栄養学を学ぶ学生（31.9点）を上回る結果となりました。さらに、「健康的な食品選択」ではChatGPT-4が満点の13点を獲得し、この分野における深い理解を示しました。また、「食事、病気、体重管理」セクションではChatGPT-3.5が満点の21点を獲得しました。これらの結果は、AIが特定の栄養分野で高い能力を発揮する一方で、知識の偏りも存在することを示唆しています。

AIと多様な人間グループとの比較

AIのパフォーマンスは、年齢、性別、教育レベル、健康状態といった様々な人口統計学的グループと比較されました。全体として、ChatGPT-4は全ての人口統計学的グループにおいて、栄養知識の総得点で人間を上回る傾向が見られました。ChatGPT-3.5も多くのセクションで良好なパフォーマンスを示し、一部のグループでは栄養学を学ぶ学生に匹敵する結果でした。Google Bardは成績にばらつきが見られ、一部のグループでは一般の人々のパフォーマンスを下回ることもありました。Microsoft Copilotは全体的に良好なスコアを示し、特に「食事の推奨事項」「食品群」「食事、病気、体重管理」のセクションで高い能力を発揮しましたが、「健康的な食品選択」ではやや劣る結果となりました。

AIの栄養分野における将来性と課題

AIによる栄養指導の可能性

本研究の結果は、ChatGPT-3.5やChatGPT-4のような一部のLLMが、栄養学を学ぶ学生に匹敵、あるいは一部のセクションでは凌駕するほどの栄養知識を有していることを示しています。これは、AIが公衆衛生や教育分野において、栄養情報の普及や学習支援ツールとして活用できる可能性を示唆しています。特に、一般的な栄養知識の提供や、健康専門家への補助的なツールとしての利用が期待されます。

AIの限界と専門家の重要性

一方で、AIには依然として限界も存在します。この研究では、AIが個々の臨床的な複雑さや個人の多様性を考慮した、パーソナライズされた食事指導を生成する能力には限界があることが示唆されました。例えば、特定の食品群の分類や、食事と特定の健康状態との関連性に関する詳細な理解には、まだ課題が見られます。AIは最新の栄養科学の進歩を常に反映しているわけではなく、また、複雑な症例や個別化された治療計画の立案には、専門的な人間の判断が不可欠です。したがって、AIはあくまで栄養教育や一般向けの啓発活動における補完的なリソースとして位置づけ、専門家による判断を代替するものではないと結論付けられます。

今後の展望と研究の方向性

AI技術は急速に進化しており、将来的には栄養士や医療専門家にとって貴重なアシスタントとなる可能性があります。しかし、AIの能力を最大限に活用し、その限界を理解するためには、継続的な研究が必要です。今後は、より多くのAIモデルの評価、より高度な評価指標（シナリオベースの評価など）の導入、そしてAIと人間の専門家との協働モデルの構築が求められます。また、最新の栄養科学の知見をAIに継続的に学習させる仕組みや、倫理的な側面への配慮も重要となるでしょう。