EU、リモージュ磁器やドニゴールツイードを保護へ：伝統工芸品に地理的表示制度を拡大、職人技と経済成長を支援

欧州連合（EU）は、フランスのリモージュ磁器やアイルランドのドニゴールツイードといった伝統工芸品に対し、EU保護表示制度を拡大することを決定しました。この制度は、シャンパーニュやパルマハムなどの農産物と同様に、工芸品や工業製品の名称をEUの地理的表示（GI）スキームに登録することを可能にします。これにより、ガラス工芸家、陶芸家、宝飾職人など、多様な職人たちが自社製品の名称を保護できるようになります。

内容紹介

EU、伝統工芸品を保護する地理的表示制度を導入

2023年に採択され、2025年12月1日より施行されたこの新たな制度は、EUの地理的表示（GI）スキームを、これまで食品・飲料に限定されていたものから、工芸品や工業製品にも拡大するものです。

保護対象となる象徴的な製品群

この制度は、「ボヘミアンガラス、リモージュ磁器、ゾーリンゲンナイフ、ドニゴールツイードなど、その評判と品質が原産地に由来する象徴的な製品」を保護することを目的としています。これにより、地域固有の技術や品質が保証されることになります。

知的財産権としての地理的表示

地理的表示（GI）は、製品の品質、評判、または特性をその原産地と結びつける知的財産権です。この権利により、製品の真正性と価値が保護されます。

職人たちの長年の要望が実現

EUの加盟国および欧州議会は、長年にわたり、非食品分野へのGIラベルの適用を推進してきました。これは、模倣品対策と関連産業の支援という、喫緊の課題に対応するためのものです。

農業分野での成功事例

この新しい制度は、30年以上にわたる農業GIの経験を基盤としています。農業GIは、現在3,600以上の名称を保護し、年間約750億ユーロ（約870億ドル）の収益を生み出し、EUの食品・飲料輸出の約15％を占める成功を収めています。

登録プロセスの概要

地方の工芸品の登録プロセスは、まず国内レベルで、次いでEUレベルで実施される二段階のプロセスを経ることになります。

専門家の視点から見る、伝統工芸品保護の新時代

職人技の保護と経済成長の促進

EUによる伝統工芸品への地理的表示（GI）制度の拡大は、単に模倣品から製品を守るだけでなく、地域経済の活性化と雇用創ち創出に大きく貢献する可能性を秘めています。EUの産業担当責任者であるステファン・セジュールネ氏が指摘するように、これは「職人のユニークなスキルと伝統を保護するだけでなく、成長、雇用、そして多くの中小企業（SME）にとって新たな機会を創出する」ものです。この制度は、地域に根差した高品質な工芸品が正当な評価を受け、国際市場で競争できる基盤を強化することになるでしょう。

文化遺産の継承とイノベーションの共存

リモージュ磁器やドニゴールツイードのような、長年にわたり培われてきた伝統技術と品質は、このGI制度によってその価値が保証されます。これは、過去の遺産を尊重し、それを未来へと継承していく上で極めて重要です。一方で、この制度は、職人たちが自らの地域的アイデンティティを強みとして、新たな市場を開拓するインセンティブともなり得ます。保護された名称は、製品の信頼性を高め、消費者の購買意欲を刺激するため、イノベーションと伝統の調和が図られることが期待されます。

EU域内および国際市場における競争力強化

EUが推進するこの包括的なGI制度は、EU域内の伝統工芸品産業全体の競争力を底上げする効果が期待されます。品質と起源が保証された製品は、偽造品や低品質な模倣品との差別化が容易になり、消費者はより安心して製品を選ぶことができます。また、これはEUの工芸品が国際市場で「本物」の価値を認められ、より有利な条件で取引されるための強力な武器となるでしょう。結果として、EUの文化遺産は保護され、経済的にもさらに豊かになる可能性があります。