YouTube、クリエイター非公開でAIによる動画自動編集を実施か? 顔の「質」向上という名目で現実に歪み

YouTube、クリエイター非公開でAIによる動画自動編集を実施か? 顔の「質」向上という名目で現実に歪み

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YouTubeが、クリエイターの同意なしに、AIを使用して動画の顔などを「質」向上という名目で、知らないうちに編集・加工していたことが明らかになりました。これは、企業が「品質向上」を理由に、現実を静かに書き換えるという、衝撃的な前例となります。

YouTubeのAIによる動画編集の実態

クリエイターの違和感:顔の不自然な変化

音楽系YouTuberのRick Beato氏は、自身の顔に奇妙な変化が起きていることに気づきました。「自分の髪が変に見える」と感じ、肌がエアブラシで加工されたように滑らかになっていたと証言しています。当初は自分の気のせいかと思われましたが、同じくクリエイターであるRhett Shull氏も、自身のチャンネルで同様の現象を確認しました。

「実験」として行われたAIによる映像加工

BBCの報道によると、YouTubeは「ノイズ除去、シャープ化、鮮明度の向上」を目的として、AI(YouTubeの広報担当者は「機械学習」と呼ぶことを好む)を使用する「実験」をひっそりと実施していたことが判明しました。しかし、実際には、クリエイターが承認していない、顔の歪みや不自然な滑らかさ、AIが生成したような不審な雰囲気を持つ動画が、クリエイターの知らないところで加工されていたのです。

クリエイターの懸念:信頼への影響

Shull氏は、「もしこのひどい過剰なシャープ化を望むなら、自分でやっただろう」「これは私自身と私の活動を深く誤って伝えている。視聴者との信頼関係を損なう可能性がある」と、自身の動画で強く批判しています。YouTube側は、スマートフォンのカメラが自動的にフィルターを適用するのと同様だと主張していますが、ピッツバーグ大学のディスインフォメーション研究チェアであるSamuel Woolley氏のような専門家は、この見解に異議を唱えています。

専門家の見解:企業による事実の改変

Woolley氏は、「スマートフォンでは、ユーザーが機能を有効にすることを選択できる。しかし、YouTubeでは、企業が事後的にコンテンツをサイレント編集し、クリエイターが承認していないバージョンを配布している」と指摘しています。さらに、AIによる編集を「機械学習」と呼ぶYouTubeの言葉遣いを、企業の隠蔽工作だと非難。「企業がトップダウンで、クリエイターに知らせることなくコンテンツを編集していると人々が知ったら、何が起こるだろうか?」と疑問を投げかけています。

AIによるコンテンツ操作の現状と今後の課題

「見えないアルゴリズム」による現実の媒介

この問題はYouTubeに限ったことではありません。SamsungはAIによって「月の写真」を偽造していたことが発覚し、GoogleのPixel 10は、実際には存在しない100倍のAI強化ズームショットを可能にしています。Netflixでさえ、古いシットコムのAI「リマスター」で顔や文字を不鮮明にしたとして批判を浴びました。これらの事例は、現実がますます「見えないアルゴリズム」によって媒介されている現状を示しています。

クリエイターのコントロール喪失という警告

Beato氏は、「YouTubeは私の人生を変えた」と、ある種寛容な姿勢を見せています。しかし、批評家たちは、AIが自身の顔をサイレントに書き換えることを許容したとき、クリエイターのコントロールはすでに失われていると警鐘を鳴らしています。

考察:YouTubeのAI編集が示唆するクリエイターエコノミーの未来

プラットフォーム依存とクリエイターの主導権

今回のYouTubeによるAI編集問題は、プラットフォームへのクリエイターの依存度と、その中でクリエイターがどれだけの主導権を握れるのかという根本的な問題を浮き彫りにしました。YouTubeのような巨大プラットフォームは、その影響力を利用して、クリエイターの同意なくコンテンツを改変する能力を持っています。これは、プラットフォームがクリエイターの「パートナー」であると同時に、「管理者」でもあるという、複雑な力学を示唆しています。

「品質向上」の曖昧さと倫理的課題

YouTubeが主張する「品質向上」は、非常に曖昧な概念です。AIによる顔の加工やシャープ化が、必ずしも全てのクリエイターや視聴者にとって望ましい結果をもたらすとは限りません。むしろ、クリエイターの個性や表現の意図を損なう可能性があります。この「品質」の定義を誰が、どのように決定するのか、そしてそのプロセスにおける透明性と倫理的な配慮が、今後の重要な課題となるでしょう。

AI時代におけるコンテンツの真正性と信頼性

AI技術の進化は、コンテンツ生成だけでなく、既存コンテンツの改変においてもその能力を発揮しています。今回の件は、AIが「現実」をどのように操作しうるのか、そしてそれがクリエイターと視聴者の間の信頼関係にどのような影響を与えるのかという、より広範な議論を提起します。コンテンツの真正性(オーセンティシティ)と信頼性をどのように担保していくのかは、AI技術が社会に浸透していく上で避けては通れないテーマです。

画像: AIによる生成