
AIが予測!無症状の胸部大動脈瘤リスクを早期発見する新技術
胸部大動脈瘤(ATAA)は、自覚症状がないまま進行し、突然の解離や破裂といった命に関わる合併症を引き起こすことがある「サイレントキラー」です。このような重篤な事態を防ぐため、韓国のカンブックサムスン病院の研究チームは、機械学習を用いて、自覚症状のない成人におけるATAAのリスクを予測するモデルを開発しました。この研究は、韓国の18,382人の健康診断データを基に、2010年から2018年にかけて収集された情報を用いて行われました。
早期発見のための機械学習モデル
背景と目的
ATAAは早期発見が難しく、発見されたときには既に破裂や解離といった重篤な状態に至っているケースが多く報告されています。従来の画像診断法(CTやMRI)は、放射線被曝や造影剤の使用、検査時間の長さといった課題があり、大規模な集団スクリーニングには不向きでした。そこで本研究では、日常的な健康診断で取得可能なデータからATAAのリスクを評価できる、機械学習ベースの予測モデルを開発することを目的としました。
使用されたデータと変数
研究では、18,382人の参加者から、基本情報(年齢、性別、喫煙状況)、身体測定値(収縮期・拡張期血圧、心拍数、腹囲、BMI)、既往歴(糖尿病、脂質異常症、高血圧)、および血液検査データ(クレアチニン、血糖、hs-CRP、LDL)といった16種類の変数を使用しました。ATAAの定義は、胸部大動脈径が3.7cm以上としました。
モデル開発と精度
開発された機械学習モデルは、5層のディープニューラルネットワーク(DNN)であり、15個の重要度の高い特徴量を用いています。このモデルの精度は、AUROC(ROC曲線下面積)で83.5%、正診率(Accuracy)で80.4%という結果を示しました。特に、年齢、高血圧、腹囲、クレアチニン値、喫煙、BMIなどがATAAリスク予測における重要な因子であることが明らかになりました。
AIによるリスク評価の未来
スクリーニングへの応用可能性
本研究で開発された機械学習モデルは、日常的な健康診断のデータを用いて、自覚症状のない成人におけるATAAのリスクを事前に評価できる可能性を示唆しています。これにより、CTなどの追加検査が必要な高リスク群を効率的に特定し、早期発見・早期介入につなげることが期待されます。研究チームは、このモデルをウェブアプリケーション化しており、より多くの人々が自身のATAAリスクを評価できるようになる見込みです。
今後の課題と展望
本研究は、大規模なデータセットと機械学習を用いることで、従来の診断法では難しかったATAAのリスク予測に新たな道を開きました。しかし、モデルの一般化のためには、他機関や他国での外部検証が必要です。また、本研究の対象者は健康診断を受けた成人であり、選択バイアスの可能性も指摘されています。将来的には、より多様な集団からのデータを用いた検証や、家族歴などの遺伝的要因の組み込みにより、予測精度の向上が期待されます。このAI技術が、ATAAの早期発見と予後改善に貢献することが期待されます。