
ISIS破壊から蘇るイラクの至宝:13世紀の聖人壁画、奇跡の修復劇
イラクの古代マール・ベフナム・サラ修道院で、イスラム過激派組織ISIS(イスラム国)による破壊を乗り越え、13世紀に描かれた歴史的な壁画の修復作業が急速に進んでいます。かつて過激派によって損壊されたキリスト教芸術の遺産が、現代の技術と献身によって息を吹き返し、その壮大な姿を再び現そうとしています。
ISISの残虐行為から蘇る、イラクの貴重な芸術遺産
この修復プロジェクトは、マール・ベフナム・サラ修道院の管理とフランスの団体「メソポタミア」の協力により進められています。ISISはキリスト教の遺産を抹消しようと、この貴重な壁画に甚大な破壊を加えましたが、修復チームの尽力により、その失われた輝きを取り戻しつつあります。
「聖マール・ベフナムの殉教」と「聖サラ」の壁画
修復されているのは、修道院内の教会に相対するように描かれた「聖マール・ベフナムの殉教」と「聖サラ」の二つの壁画です。これらの壁画は、その規模と芸術的な精巧さにおいて他に類を見ないものであり、歴史的価値だけでなく、長年にわたり信者たちの間で崇拝の対象となってきました。ISISによる破壊は、これらの芸術作品の大部分を損なうものでしたが、修復作業は神の導きによるものだと修道院長は語っています。
損傷の状況と修復への道のり
壁画は、彫刻家のタブト・ミカエル氏によれば、約80%が損傷を受けていたと推定されています。ISISは、外枠以外のほとんどの部分を破壊しましたが、そこから修復プロセスが開始されました。ミカエル氏は、2011年の壁画修復にも携わっており、その経験が今回の困難な修復作業に不可欠でした。特に、彫刻的な特徴の完全な破壊や顔の細部の消失は、修復チームにとって大きな課題となりました。
歴史的資料に基づいた忠実な復元
修復チームは、フランスチームによる壁画とその歴史に関する詳細な調査、および包括的な写真アーカイブの作成に助けられました。1904年に外国の旅行者によって撮影された最も古い写真など、現存する最古の画像を参照することで、オリジナルの姿に可能な限り近い復元を目指しました。修復には、オリジナルの素材である石膏と石灰が使用され、さらに接着性や耐久性を高めるための要素が加えられました。また、色褪せたオリジナルの色彩も、同様の顔料を用いて復元されました。現存する断片的な色彩部分を分析し、ティクリト出身のシリア系芸術家たちが生み出した、彫刻、書道、装飾デザインに長けた職人技による、オリジナルの作品に最も近い色合いが再現されています。
ISIS破壊からの再生:イラクのキリスト教芸術復興への希望
ISISによる蛮行は、イラクのキリスト教遺産に深い傷跡を残しましたが、マール・ベフナム・サラ修道院の壁画修復は、単なる芸術作品の再生以上の意味を持ちます。これは、暴力と破壊によって失われかけた文化と信仰の回復、そして困難な状況下でも希望を失わない人間の精神の証です。
失われた色彩と様式の復元:アタベグ様式と地域文化の融合
修復作業は、壁画が制作された時代の芸術様式であるアタベグ様式を反映しつつ、地元のイラクの要素やアッシリア文明からの影響を融合させています。壁画の色彩も、過去の資料を分析し、オリジナルの鮮やかさを再現することに成功しました。聖マール・ベフナムの壁画は幅約4メートル、聖サラの壁画は幅約1メートルと、それぞれ異なるスケールですが、どちらもアラビア語とシリア語の碑文で縁取られており、当時の文化交流の豊かさを示唆しています。
未来へのメッセージ:文化遺産の保護と平和への願い
この壁画の修復は、過去の歴史を現代に蘇らせるだけでなく、未来へのメッセージとしても機能します。ISISの破壊行為は、文化遺産がいかに脆弱であるかを浮き彫りにしましたが、同時に、それを守り、再生しようとする人々の強い意志も示しました。この修復プロジェクトは、イラクにおけるキリスト教徒コミュニティの継続と、多様な文化遺産が共存する社会の重要性を再確認させるものです。今後、このような貴重な遺産が二度と破壊されることのないよう、国際社会全体での文化遺産保護への取り組み強化が、平和な未来を築く上で不可欠となるでしょう。