
フォードのEV戦略に急ブレーキ?テスラ・アップル出身の重鎮ダグ・フィールド氏が退任した本当の理由
自動車業界の巨人フォード・モーターにおいて、EV(電気自動車)および技術部門を牽引してきたダグ・フィールド氏が退任することが明らかになりました。テスラやアップルで培った知見を活かし、フォードの「近代化」を託された重要人物の離脱は、同社の電動化戦略が岐路に立っていることを強く印象づけています。
ダグ・フィールド氏の退任とフォードの組織再編
テスラ・アップル出身の異才による改革
2021年にフォードへ招聘されたダグ・フィールド氏は、同社が抱えていた古い体質を脱却し、テクノロジー主導の企業へと変革するための司令塔でした。CEOのジム・ファーリー氏が「流域(ターニングポイント)」と呼んだ同氏の参画は、シリコンバレー流のスピード感やソフトウェア開発の文化を伝統的な自動車メーカーに注入することを期待されていました。
EV事業の逆風と計画の見直し
しかし、フィールド氏の在任中、フォードはEV需要の減速や政策変更という逆風に直面しました。その結果、次世代EVの開発プログラムや、車両の「脳」となる高度な電気アーキテクチャの開発といった主要プロジェクトの一部が中止に追い込まれました。昨年12月には、こうしたEVプログラムの撤退に伴い、195億ドルもの巨額の減損処理を計上しています。
今後の組織体制
フィールド氏の退任を受け、フォードは組織の再編を進めます。これまで独立していた先進技術チームを、クマール・ガルホトラ最高執行責任者(COO)が率いるグローバル産業化チームと統合し、「製品創出・産業化」部門を新設します。この新体制のもと、2029年までに北米車両ラインナップの8割を刷新するという野心的な目標達成を目指します。
自動車メーカーの技術変革が直面する本質的課題
「シリコンバレー流」の移植という困難
本件は、伝統的な自動車メーカーがシリコンバレー出身のトップ人材を招き入れて「文化」を変えようとする試みの難しさを浮き彫りにしています。短期間での変革を求めるテック企業と、長年の歴史と複雑な供給網を持つ自動車メーカーとの間には、依然として深い溝が存在します。フィールド氏が「製品ではなくチームと文化の構築こそが旅の目的だった」と語ったことは、製品化以前の組織的な障壁がいかに厚かったかを物語っています。
効率化と革新のバランスというジレンマ
フォードが現在直面しているのは、次世代EVへの投資と、依然として利益の柱であるガソリン車・ハイブリッド車との間でいかに効率的な体制を築くかという究極のトレードオフです。技術チームと産業化チームの統合は、スピード重視のシリコンバレー的アプローチから、既存の強固な製造力を活かした「現実的かつ収益性の高いモノづくり」へ舵を切ったことを示唆しています。今後は、理想的なEVの実現だけでなく、市場の冷え込みに耐えうる柔軟な収益体質の構築が、フォードの生き残りをかけた試金石となるでしょう。