米国、気候変動対策に逆行? 年間350億ドル超の化石燃料補助金の実態

米国、気候変動対策に逆行? 年間350億ドル超の化石燃料補助金の実態

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最新の報告書によると、米国政府が化石燃料企業に対し、年間350億ドル(約5兆円超)もの巨額の補助金を提供していることが明らかになりました。気候変動対策が急務とされる現代において、この事実はその推進を妨げる構造的な問題を示唆しています。

巨額の化石燃料補助金、その内訳と影響

化石燃料業界への手厚い支援の実態

Oil Change Internationalが発表した報告書「Paying for Climate Chaos」によれば、2023年だけで米政府は石油・ガス企業に348億ドルもの補助金を支給しています。これは2017年の調査開始時と比較して大幅な増加であり、当時の200億ドルから大きく膨らんでいます。さらに、最近可決された「One Big Beautiful Bill Act」により、今後40億ドル近くの追加補助が見込まれています。

「One Big Beautiful Bill Act」による新たな支援

この法律により、化石燃料企業は公共の土地での石油・ガス採掘に関するロイヤリティ率の引き下げ(12億ドル)、メタン排出量に対する従量税の導入延期(7億2000万ドル)、そして炭素回収・貯留や水素関連技術への法人税控除拡大(3億5900万ドル)といった恩恵を受けています。

補助金の将来的な増加予測

報告書は、これらの補助金が今後10年間でさらに増加する可能性を指摘しています。特に、炭素回収・利用・貯留(CCUS)や水素製造に関連する新たな補助金の導入により、化石燃料生産を促進する形となり、年間補助額が数千億ドル規模にまで急増する恐れがあると警鐘を鳴らしています。

考察:補助金政策の矛盾と持続可能な未来への転換点

補助金政策の矛盾と機会損失

米国政府が気候変動対策を掲げながら、同時に巨額の化石燃料補助金を継続している現状は、政策の一貫性に疑問を投げかけます。共和党が予算法案の一部としてメディケイドや食料支援プログラムの削減を進める一方で、化石燃料企業への支援が拡大していることは、社会に必要なセーフティネットや再生可能エネルギーへの移行に必要な資金が、気候変動を悪化させる産業に流れていることを意味します。これは、気候危機という喫緊の課題に対する社会全体の対応能力を削ぐ行為と言えるでしょう。

「化石燃料時代」終焉への大胆なアジェンダ

Oil Change Internationalのキャンペーンマネージャーであるコリン・リース氏は、「化石燃料産業に支払うのをやめる時が来た」と強く訴えています。同氏は、これらの補助金を医療、住宅、クリーンエネルギーといった、地域社会が真に必要としている分野へ再配分することを提唱しています。トランプ政権下での「化石燃料に根差した腐敗」や「労働者への攻撃」は、むしろ「化石燃料時代」の終焉に向けた、より大胆な新たなアジェンダを推進する機会をもたらすと彼は指摘しています。

持続可能な未来のための政策転換の必要性

今回明らかになった巨額の補助金の実態は、米国が気候変動対策において、より抜本的な政策転換を迫られていることを示しています。化石燃料への依存を脱却し、持続可能な社会を築くためには、補助金の廃止はもちろんのこと、再生可能エネルギーへの投資拡大や、気候変動の影響を最も受ける脆弱なコミュニティへの支援強化が不可欠です。この報告書は、そのための具体的な行動を促す重要な一歩となるでしょう。

画像: AIによる生成