低線量放射線、新研究が示す「想定より無害」の可能性:規制見直しの議論を呼ぶ

低線量放射線、新研究が示す「想定より無害」の可能性:規制見直しの議論を呼ぶ

ウェルネスウェルビーイング低線量放射線原子力安全AI研究放射線リスク健康影響

コロンビア大学と放射線影響研究所(RERF)による最新の研究結果が、アメリカの原子力政策における規制のあり方に大きな影響を与える可能性が出てきました。この研究では、高度な機械学習技術を駆使し、長年議論されてきた「低線量放射線の危険性」について、新たな知見を提供しています。

原子爆弾被爆者データから紐解く、低線量放射線の未知なる影響

長年にわたり、原子爆弾の被爆者は放射線リスク評価の重要なデータソースとなってきました。しかし、特に低線量の放射線被曝(0.1グレイ未満、これは数回のCTスキャンや数年分の自然放射線量に相当)の影響については、その評価が困難であることが課題でした。

「LNTモデル」への挑戦:線量とリスクの線形関係は常に成り立つのか

従来の「直線的しきい値なし(LNT)モデル」は、放射線量はたとえ微量であっても、がんリスクと比例して増加すると仮定しています。しかし、このモデルは生物学的な複雑さを単純化しすぎているとの批判もあります。一方で、「ホルミシス」という仮説では、有害物質の低用量曝露は、むしろ生物学的な修復メカニズムを活性化させるなどの有益な応答を引き起こす可能性があるとされています。

0.05グレイ未満の線量に、統計的に有意なリスク増加は認められず

今回の研究では、86,000人以上の被爆者の死亡率データを、因果推論に基づいた機械学習(CML)を用いて再解析しました。その結果、0.05グレイを超える線量では、放射線曝露が全死因死亡率を因果的に増加させることが確認されましたが、それ以下の線量では、統計的に有意なリスク増加は認められませんでした。この発見は、アメリカで現在定められている職業上の被ばく限界(年間50ミリグレイ)が、すでに安全マージンを含んだ保守的なものである可能性を示唆しています。

規制への影響:LNTモデルからの脱却と、より現実に即したリスク評価へ

この研究はLNTモデルを完全に否定するものではありませんが、放射線防護におけるデフォルトの仮定としてのその必要性に疑問を投げかけています。もしこの結果が認められれば、低線量被ばく限度が見直され、環境浄化や医療用画像診断における過剰な規制緩和につながる可能性があります。また、放射線に対する過剰な恐怖心を払拭し、データに基づいたより現実的なリスクコミュニケーションの実現も期待されます。低炭素エネルギー政策の柱として原子力が見直され、診断技術が医療を進歩させ続ける現代において、規制のあり方を最新のデータに基づいて更新することは、喫緊の課題と言えるでしょう。

画像: AIによる生成