
ICEの脅威で中止も?ディア・デ・ロス・ムエルトス、米国での祝祭に影を落とす移民政策
メキシコやラテンアメリカで祝われる「死者の日」(Dia de los Muertos)は、故人を偲び、陽気に祝う伝統的な祝祭です。しかし、近年、アメリカ国内のラテン系コミュニティでは、移民・関税執行局(ICE)による急激な移民取り締まり政策への懸念から、この大切な祝祭が中止される事態に直面しています。かつては、故人を偲ぶ厳粛な時間でありながらも喜びと活気に満ちたこの祝祭が、今、恐怖の感情を伴うものへと変わりつつあります。
懸念高まる「死者の日」の開催
移民取り締まり強化による影響
トランプ政権下での移民取り締まり政策の強化は、アメリカ各地の「死者の日」のイベントに影を落としています。アラバマ州ディケーターでは、移民取り締まりの脅威を理由に、毎年恒例のディア・デ・ロス・ムエルトス・フェスティバルが中止されました。主催者は、現在の移民状況と安全への懸念から、コミュニティ、参加者、そして友人たちの幸福が最優先事項であると説明しています。
コミュニティの不安とイベント中止
カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアでも、バークレー高校で開催予定だったディア・デ・ロス・ムエルトス(Día de los Muertos)のイベントが中止されました。イベント主催者によると、保護者たちがイベントへの参加に不安を表明したことが中止の理由です。移民である一部の家族は、法執行機関との遭遇を恐れて、普段から学校に子供を送る際に不安を感じているとされています。この中止は、タマルやアグア・フレスカなどの飲食物を販売する業者にとって損失であるだけでなく、栄養支援プログラムなどのコミュニティリソースと家族を結びつける機会を失うことにもなりました。
増加するICEの拘留者と強制送還
過去1年間で、ICEによる拘留者数は約59%増加し、昨年9月は約37,395人だったのが、先月には59,762人に達しました。強制送還も増加しており、トランプ氏が2期目に入ってから527,000件の強制送還が実施されたと報じられています。ホワイトハウス報道官は、この増加を称賛し、トランプ政権が歴史的な記録を更新するペースであると述べています。
安全への配慮と伝統の維持
サンタバーバラ現代美術館は、今年のカレンダ・ディア・デ・ロス・ムエルトス(Calenda Día de los Muertos)を中止しました。このイベントは、メキシコのオアハカ州やゲレロ州からの音楽やダンス、そして故人のための祭壇やオアハカ料理などが特徴でした。しかし、主催者は、屋外で開催されるイベントの安全を保証できないと判断しました。文化的な祝祭を維持すること自体が抵抗の形となり得ますが、特にBIPOC(黒人、先住民、有色人種)コミュニティにとっては、脅威に直面しながらも伝統を「見世物」として演じることが期待されていると感じる人もいます。しかし、主催者は、喜びがすべての人に存在しない現実を無視できないと訴えています。
移民政策が文化の祭典に与える複雑な影響
「見せる」ことのリスクと「見せない」ことの葛藤
「死者の日」の祝祭は、故人を偲ぶだけでなく、コミュニティのアイデンティティと文化を再確認する重要な機会です。しかし、ICEの捜査や大規模な強制送還の脅威は、これらの祝祭を「可視性」がリスクを伴うものに変えてしまいました。特に、労働力として依存度の高い移民労働者が多い地域では、ICEの捜査が労働者の逮捕につながる事例も報告されており、コミュニティ全体に深い不安を与えています。
祝祭の未来とコミュニティのレジリエンス
サンフランシスコのイベント主催者は、移民取り締まりの緊張感が高まる中でも、コミュニティは最終的に団結すると信じています。たとえICEが現れたとしても、コミュニティの力で圧倒できるだろうと述べています。しかし、個人的な安全を最優先するようコミュニティメンバーに促してもおり、祝祭が有機的に、そして誰がいてもいなくても開催されるであろうことを強調しています。この状況は、「死者の日」のような文化的な祝祭が、単なる伝統行事ではなく、社会情勢を反映し、コミュニティのレジリエンス(回復力)が試される場となっていることを示唆しています。