クリエイティブディレクター、ジョイス・N・ホーが語る、キャリアの休息がもたらした創造性の再発見

クリエイティブディレクター、ジョイス・N・ホーが語る、キャリアの休息がもたらした創造性の再発見

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エミー賞受賞クリエイティブディレクターであるジョイス・N・ホーは、14年間ノンストップで走り続けたキャリアの中で、デザインを始めた頃の情熱を見失いかけていました。このままではいけないと感じた彼女は、キャリアにおける「サバティカル(長期休暇)」を取得。この決断が、彼女自身のアイデンティティの再発見と、新たな創造性の扉を開くきっかけとなりました。本記事では、ジョイスがサバティカル中に何を行い、そこから何を学び、そしてどのように自身のクリエイティビティを再定義していったのかを、彼女自身の言葉と共に紐解いていきます。

デザインの原点回帰と自己探求の旅

キャリアの停滞感とサバティカルの決断

14年間、クリエイティブディレクターとして第一線で活躍してきたジョイス・N・ホー。数々の著名なプロジェクトに携わり、エミー賞も受賞するなど、順風満帆に見えるキャリアでしたが、彼女自身は「デザインを始めた頃の情熱が薄れていくのを感じていた」と語ります。忙しい日々の中で、本来のデザインの楽しさや、手を動かすことへの喜びを見失いかけていたのです。この危機感から、彼女はキャリアにおける長期休暇、すなわちサバティカルを取得することを決意しました。

自己ブランディングの再構築と新たな表現への挑戦

サバティカル期間中、ジョイスはまず自身のウェブサイトのリニューアルに着手しました。これは、単なるデザインの刷新に留まらず、彼女自身のアイデンティティを再定義するプロセスでした。長年の友人でありブランディングと写真に精通したデザイナー、エミリー・シムズ氏と協力し、自身のルーツである中国文化の要素を取り入れた、よりパーソナルでダイナミックなブランドイメージを構築しました。鮮やかなクリムゾンレッドを基調とした新しいブランドシステムは、彼女の中国系オーストラリア人としてのアイデンティティを肯定し、色彩への新たなアプローチを促しました。

}=(-1)と$-1$の概念の導入

ジョイスは、自身のサバティカル期間中に、物理的な製品制作にも積極的に取り組みました。その中には、彼女の中国のルーツを象徴する手彫りの印鑑に着想を得た、幾何学的なデザインのスタンプや、自身の作品集「Exploration」のためのアートワーク、さらには金属製の香炉なども含まれます。特に、これまでに経験のなかった金属加工の分野では、オンラインの製造業者を活用し、設計図から部品を作成するという、デジタルデザイナーとしては未知の領域に挑戦しました。こうした物理的な制作プロセスは、デジタルデザインとは異なる、予算や製造上の制約の中でいかに創造性を発揮するかという、新たな「タイトな綱渡り」の経験となりました。

「final_final」ハットに見るデザイナーの遊び心

ジョイスは、自身のデザイナーとしてのユーモアセンスを反映させた「final_final」と名付けられたハットも制作しました。これは、デザインプロセスにおける「最終決定」を皮肉った、デザイナーならではのジョークです。アパレルのデザイン経験がない中で、製造方法やコストを考慮しながら、両面が白と赤のリバーシブル仕様のタグまでこだわり抜きました。このタグは、彼女のショップのエコシステムに「オーダーメイド感」をもたらすための重要な要素であり、細部へのこだわりが彼女のプロフェッショナリズムを示しています。

サバティカルがもたらした創造性と自己肯定感の深化

デジタルとアナログの融合:描画ロボットによる「Exploration」

ジョイスは、以前から所有していた描画ロボット「AxiDraw」を活用し、自身の個人的な作品集「Exploration」を制作しました。このロボットは、ベクトルベースのアートワークを読み込み、ペンや絵筆などを装着して描画することが可能です。彼女は、自身のデジタルでクリーンな線画作品に、アナログな要素や偶然性を加えるためにこのロボットを使用しました。Cavalryというアニメーションプログラムを用いて、幾何学的なシステムを構築し、それをロボットに実行させることで、デジタルとアナログが融合したユニークなアートワークを生み出しました。

対立する要素のダイナミズムとインスピレーションの源泉

ジョイスは、自身の作品において「対立する要素のダイナミズム」を重視しています。例えば、非常に硬質な直線と有機的な要素を組み合わせたり、対照的なテーマを探求したりすることで、作品に緊張感と面白さを生み出しています。彼女のインスピレーションは、しばしばデザインとは全く関係のない日常の事象から得られます。草間彌生の作品に見られるような水玉模様を、自身の得意とするプロシージャルな手法で再現できないか、といった問いかけから、新たな技術的問題解決や創造的な探求へと繋がっていきます。この「パラメーターを設定し、それを極限まで調整する」というアプローチは、彼女のデザイン哲学の核となっています。

自己解放と「抽象芸術家」としての新たなアイデンティティ

サバティカル期間を経て、ジョイスは自身の作品を「自己のための制作」として捉え、以前よりも気軽に共有できるようになりました。クライアントワークとは異なる、個人的な作品に対する「完璧主義」を手放すことができたのです。また、自身のプロフィールに「抽象芸術家」という肩書きを加えたことは、彼女にとって自己実現への大きな一歩となりました。これは、自らをそのように定義することで、そのアイデンティティを体現し、モチベーションを高めるという、「自己成就予言」のような効果を狙ったものです。まだ抽象芸術家としてのポテンシャルを最大限に引き出せていないと感じつつも、この新しい肩書きは、彼女の進化における重要な第一歩となっています。

サバティカルの経験と復帰後の変化

サバティカルは、ジョイスに「自分のために物を作る喜び」を再認識させました。有給の仕事から完全に離れ、純粋に創造的な活動に没頭する時間は、彼女にとってかけがえのないものでした。復帰後、職場は彼女を急かさず、ゆっくりとしたペースの仕事から始めてくれましたが、サバティカルで得た「精神的なスペース」が、再びカレンダーやクライアントワークで埋まっていくことに苦労したと語ります。しかし、自身の人生に喜びをもたらす創造的な活動の重要性を理解しているため、以前よりも意識的にそのための時間を作るようになり、結果として、仕事と自己の創造活動のバランスを取り戻しつつあります。

画像: AIによる生成