
アルツハイマー病の異常なたんぱく質:地球生命の起源に迫る鍵か?
アルツハイマー病などの神経変性疾患患者の脳内に蓄積する異常なたんぱく質が、地球上の生命の起源を探る上で重要な手がかりとなる可能性が分子神経生物学者によって指摘されています。異常なたんぱく質、特にアミロイドと呼ばれる繊維状の沈着物は、生命誕生以前の化学プロセスや現代医学が直面する神経変性疾患のメカニズム解明に新たな光を当てるかもしれません。
生命の起源と異常なたんぱく質の接点
たんぱく質の誤った折りたたみと連鎖反応
通常、細胞内のたんぱく質は機能を発揮するために精密に折りたたまれた特定の構造をとります。しかし、この折りたたみの過程で「間違った方向」に進んでしまうたんぱく質が存在します。ポーランドAGH大学の分子神経生物学者、トマシュ・ザイコフスキ氏によると、一度誤った折りたたみが始まると、それが他の正常なたんぱく質にも伝播し、連鎖反応を引き起こすことが、アルツハイマー病をはじめとする多くの壊滅的な神経疾患の原因となっています。
アミロイドと生命の起源
アミロイドは、アミノ酸の短い鎖(ペプチド)から容易に形成されることから、地球上の生命誕生以前の分子構造の有力な候補と考えられています。さらに、隕石からペプチドが発見されたという研究もあり、生命の材料が宇宙からもたらされた可能性も示唆されています。アミロイドはその安定性(熱、酵素、化学的分解への耐性)から、約35億年から40億年前の生命誕生黎明期における初期の分子構造であった可能性が指摘されています。
酵素進化の謎を解く鍵?
アミロイドは、細胞が存在する以前から形成されていた可能性があり、現代の酵素がどのように進化したかという生命科学における大きな謎を解き明かす鍵となるかもしれません。現代の酵素は、精密な三次元構造を持つ長いタンパク質であり、化学反応を水から保護する疎水性のコアを持っています。しかし、このような長いタンパク質はリボソーム(タンパク質合成器官)によってのみ構築されるため、生命誕生以前には存在し得なかったと考えられています。アミロイドは、RNAやDNAといった情報伝達分子と共存し、初期生命システムのための安定した足場を提供した可能性が考えられます。
神経変性疾患との関連
一方で、アミロイドは神経変性疾患において深刻な被害をもたらす原因としても知られています。これらの疾患では、アミロイドたんぱく質の生成が過剰になり、神経細胞の変性や破壊、さらには脳に空洞を引き起こすこともあります。たんぱく質の折りたたみと凝集の一般的な規則を解明することは、神経変性の経路をより明確にし、原因と結果を区別し、治療の可能性を探る上で役立ちます。
科学の進歩がもたらす両分野への貢献
医学と宇宙生物学の相互作用
アミロイドに関する基礎科学の研究は、医学と宇宙生物学の両分野に貢献しており、それぞれの分野での発見が他方の理解を深めるという相互作用があります。アミロイド科学は、病気の治療法開発と生命の起源という、一見離れた二つの分野を結びつける学際的なアプローチの重要性を示唆しています。