
PHEVの「排出ガス削減」は幻想だった? 燃費未達の衝撃と規制の盲点
プラグインハイブリッド車(PHEV)は、電気自動車(EV)の利便性と内燃機関車の航続距離を併せ持つと期待されていましたが、最新の研究によると、その約束が果たされていないことが明らかになりました。欧州の調査グループ「Transport & Environment」の報告によると、実走行データに基づいた127,000台のPHEVの分析から、これらの車両は主張されていたよりも大幅に排出ガスを削減しておらず、ドライバーにとってもコストがかかることが示唆されています。本来、PHEVは日常的な移動の75%を電気のみで走行することが想定されていましたが、実際にはわずか27%にとどまり、結果として、通常のハイブリッド車と比較して石油燃料の使用量を19%しか削減できませんでした。この乖離は、自動車メーカーが排出ガス規制の目標を達成しながらも、罰金を回避することを可能にしたと指摘されており、「ディーゼルゲート」との類似性も指摘されています。本記事では、この問題が工学的側面と規制的側面の両方からどのようにして生じたのかを掘り下げます。
PHEVの現状と課題
PHEVの理論と現実
PHEVは、内燃機関と電動パワートレインを組み合わせた車両であり、約30~50マイル(約48~80km)のEV走行が可能な小型バッテリーを搭載しています。その理論的背景には、多くのドライバーが1日の平均走行距離(約35マイル、約56km)を電気のみでカバーできるという前提がありました。これにより、日常の通勤はEVとして、長距離移動や予期せぬ状況ではガソリンエンジンで対応できる「両方の長所」が期待されました。また、EVで長距離移動する際の急速充電料金がガソリン並みに高価であることから、PHEVは経済的なメリットも提供すると考えられていました。
PHEVの欠点
一方で、PHEVは「両方の短所」を抱えているという批判もあります。2つのパワートレインを持つことによる複雑な構造、特にメンテナンスが必要な内燃機関部分の維持管理、そして純粋なEVと比較して高価になりがちな点です。バッテリーが小型であるため、EVよりも安価になる場合もありますが、その差は限定的です。結果として、価格プレミアムが8,000ドル(約120万円)以上になることもあり、日常の通勤をすべて電気で行ったとしても、その投資を正当化することは難しいとされています。
研究が明らかにした問題点
実際の車両の走行データに基づく研究では、いくつかの問題点が浮き彫りになりました。まず、多くのユーザーが日常的な充電を十分に行わず、結果としてガソリン走行の割合が多くなっています。さらに、一部のPHEVでは電気モーターの出力が不足しており、純粋に電気だけで走行しようとしても、加速時や坂道などでガソリンエンジンが作動してしまうケースが多く、車両全体の動力の約3分の1がガソリンに依存している状況が確認されました。これは、両方のエンジンが直接車輪を駆動する「パラレルハイブリッド」方式の採用によるものですが、電動モーターの性能が最適化されていない場合、実質的なEV走行距離が大幅に制限される要因となっています。
排出ガス削減目標未達の背景
ドライバーの意識と規制の落とし穴
PHEVが本来の性能を発揮するには、ドライバーが日常的に充電を怠らず、電気モーターのみで走行する意識を持つことが不可欠です。しかし、充電を怠った場合のペナルティが限定的であるため、ドライバーの「怠慢」が排出ガスの削減効果を低下させる一因となっています。特に、日常の往復距離がPHEVのEV航続距離を超えるドライバーは、家庭と職場の両方で充電するなど、より一層の注意が必要です。また、ロードトリップにおける「レンジ不安」(航続距離への不安)を理由にPHEVを選択するユーザーもいますが、これらのユーザーは長距離移動で充電をほとんど行わない傾向にあり、結果としてガソリン車と同様の走行パターンになることが予想されます。
規制のあり方への疑問
この問題の根本的な原因は、排出ガス削減という目標設定よりも、その達成手段として具体的な数値を規定してしまった規制のあり方にあります。PHEVの規制における「楽観的すぎる計算式」は、メーカーがPHEVを販売することで排出ガス総量を低く抑え、罰金を回避することを可能にしました。本来は、実際の排出ガス削減量に基づいて評価を行うべきであり、車両が記録する燃料消費量やEV走行距離といったデータを活用することで、より実態に即した評価が可能になります。この研究で計算されたところによると、メーカーは有利な計算式を利用することで50億ドル(約7,500億円)以上の罰金を回避し、一方でドライバーは、本来期待されていたEV走行性能が得られないことで、年間約500ドル(約7万5千円)の追加コストを負担しているとされています。
今後の展望と提案
PHEVのポテンシャルを最大限に引き出すためには、いくつかの改善策が提案されています。まず、PHEV購入者に対し、日常的なEV走行の重要性や、充電環境がない場合の購入リスクについて、より正確な情報提供を行うことが重要です。また、車両の設計においては、市街地走行の大部分を電気のみでカバーできるような、より強力な電気モーターの搭載が望まれます。さらに、メーカーに対するインセンティブやペナルティは、実際の排出ガス削減量に基づいて評価されるべきです。これにより、メーカーはより現実的な数値を予測し、それに基づいた車両設計を行うようになります。長距離移動における「レンジ不安」を解消する代替案として、航続距離150~180マイル(約240~290km)のBEVに、必要に応じて利用できる「レンジエクステンダー(REX)」を搭載するモデルや、ロードトリップ時のみレンタルできるREXシステムの導入なども検討されています。
レンジエクステンダー(REX)という選択肢
研究著者らは、レンジエクステンダー(REX)を搭載したPHEV、すなわち、150~180マイル(約240~290km)のEV航続距離を持つBEVに、発電用のジェネレーターを搭載するタイプの車両にも注目しています。これは「シリーズハイブリッド」の一種であり、中国では既に人気があります。過去にはBMW i3などがデザイン上の欠点から販売が伸び悩んだ例もありますが、十分なEV航続距離があれば、日常的な充電頻度を減らすことができ、長距離移動でもREXを利用すれば、ガソリン車と同様の利便性を提供できます。REXは、牽引能力を考慮して十分な出力(約60kW)を持つことも可能であり、トレーラーに搭載して必要時のみ利用する、あるいは都市部では使用せず、長距離移動時のみレンタルするといった応用も考えられます。これにより、ドライバーは「レンジ不安」を感じることなく、より小型で経済的なバッテリーを搭載した車両を選ぶことができ、結果として、自動車メーカーは過剰なバッテリー搭載を避けることができます。
推奨事項
- PHEV購入者に対し、日常の走行をEVで行うことの重要性、および充電環境の有無が車両選択に与える影響について、十分な情報提供と啓発を行う。
- PHEVは、ガソリンエンジンを補助的に使用する場面を最小限にし、日常的な移動の大部分を電気のみで走行できるように設計・使用されるべきである。
- 自動車メーカーに対するインセンティブやペナルティは、理論値ではなく、実際の排出ガス削減実績に基づいて評価されるべきである。
- レンジエクステンダー(REX)搭載車の開発を推進し、特に都市部ではEVとして、長距離移動時にはREXを活用するという柔軟な利用形態を支援する。