
インド西ガーツ山脈:天然林 vs. 人工林、土壌炭素貯留能力に明暗 - 土地利用変化が気候変動緩和に与える影響
インド西ガーツ山脈の熱帯雨林における土地利用の変化が、土壌有機炭素(SOC)の動態にどのような影響を与えるかを調査した最新の研究結果が発表されました。この研究は、生物多様性のホットスポットであるこの地域において、天然林から人工林(テーク材プランテーション)への転換が、土壌の炭素貯留能力や健全性に与える影響を明らかにしました。その結果、天然林が人工林よりも有意に高いSOC濃度を維持していることが判明し、熱帯林土壌の炭素貯留戦略における天然林の重要性が改めて浮き彫りになりました。
熱帯林の土地利用変化と土壌有機炭素の関係
本研究では、インド南西部、生物多様性の宝庫として知られる西ガーツ山脈を対象に、天然林とテーク材(Tectona grandis)の人工林(40~50年生)における土壌有機炭素(SOC)濃度を比較しました。土壌は表層から深さ1mまで4つの層(O、A、B、C)に分け、それぞれのSOC濃度、土壌密度、土性、陽イオン交換容量(CEC)、pHなどを分析しました。
SOC濃度の比較
天然林の平均SOC濃度は16.61 g/kgであったのに対し、テーク材人工林では11.82 g/kgと、有意に低い値を示しました。これは、天然林が人工林よりも土壌中の炭素をより多く保持していることを示唆しています。
SOCの垂直分布
天然林では、SOCの70%以上が表層(O層とA層)に集中しており、深層部に向かって減少する傾向が見られました。一方、人工林では、表層でのSOC蓄積率が天然林に比べて低いことが示されました。
SOCと土壌特性の関係
天然林では、SOC濃度と土壌pHの間に有意な負の相関(pHが低いほどSOCが高い)が見られましたが、人工林では正の相関(pHが高いほどSOCが高い)が観察されました。また、天然林ではSOCと粘土含有量に正の相関、砂質土壌とは負の相関が見られましたが、人工林では逆の傾向が示唆されました。
地域ごとの差異
研究対象となった5つの地域のうち4地域(NCL、SHH、WCP、NHH)で、天然林が人工林よりも高いSOC濃度を示しました。しかし、SCF地域では、長伐採周期と最小限の攪乱により、人工林の方が天然林よりも高いSOCを蓄積していました。これは、人工林の管理方法がSOC動態に影響を与える可能性を示唆しています。
考察:西ガーツ山脈の土壌炭素貯留における土地利用の重要性
天然林の保全と持続可能な人工林管理の必要性
本研究の結果は、熱帯地域、特に生物多様性のホットスポットである西ガーツ山脈において、天然林から人工林への土地利用転換が土壌有機炭素(SOC)の貯留能力を低下させるという、世界的な課題を改めて浮き彫りにしました。天然林が維持する高いSOC濃度は、生態系の健全性、気候調節機能、そして持続可能な土地管理にとって不可欠な要素です。
天然林の優位性と気候変動緩和への貢献
天然林は、その多様な植生と複雑な生態系プロセスにより、人工林よりも優れたSOC貯留能力を有しています。これは、地球規模の炭素循環において、天然林が気候変動緩和に果たす役割がいかに大きいかを示しています。特に、生物多様性が高く、複雑な生態系を持つ西ガーツ山脈のような地域では、天然林の保全は、炭素貯留だけでなく、生物多様性の維持や生態系のレジリエンス向上にも寄与します。
人工林管理の最適化によるSOCギャップの縮小
一部の地域で人工林が天然林に匹敵する、あるいはそれ以上のSOCを蓄積していた事例は、適切な管理方法がSOC貯留能力を向上させる可能性を示唆しています。長伐採周期の設定、土壌攪乱の最小化、侵食防止策の実施、アグロフォレストリーシステムの導入、粘土質有機物の施用などは、人工林と天然林の間のSOCギャップを縮小し、土壌の健康を改善するための有効な戦略となり得ます。しかし、これらの人工林が「偽の炭素シンク」とならないよう、継続的なモニタリングと科学的根拠に基づいた管理が不可欠です。
土壌pHとテクスチャーの複雑な相互作用
本研究で観察された、天然林と人工林におけるSOCと土壌pH、および土性との相関関係の違いは、土壌の化学的性質と物理的性質がSOC動態に複雑に影響していることを示しています。特に、人工林におけるアルミニウム(Al³⁺)の影響や、酸性土壌下での有機物の安定化メカニズムは、さらなる研究が必要です。これらの要因を理解することは、地域ごとの土壌特性に合わせた、より効果的な炭素貯留戦略を開発する上で重要となります。
天然林の維持・回復は、持続可能な土地管理と気候変動目標達成のために、依然として最優先事項であるべきです。同時に、失われた、あるいは劣化した天然林の代替として、適切に管理された人工林は、炭素貯留能力を高め、土壌の健全性を回復させるための重要な役割を担う可能性があります。