
『MIO: Memories in Orbit』開発秘話:手描きアニメーションと3D融合が生む、驚異のビジュアル表現
『MIO: Memories in Orbit』は、手描きのセルルックアニメーションと3D空間を融合させた、まるでコミックブックの世界に入り込んだかのような独創的なアートディレクションを持つメトロイドヴァニアスタイルのゲームです。この記事では、開発チームであるDouze Dixièmesのクリエイターたちが、どのようにしてこのユニークなビジュアル表現を実現したのか、その制作秘話に迫ります。
『MIO: Memories in Orbit』の芸術的表現とその制作プロセス
『MIO: Memories in Orbit』は、手描きの線画、絵画的な色彩、そして3D空間の組み合わせにより、レンダリングされたものではなく、手描きされたかのような異世界的な環境を創り出しています。これは、同スタジオの前作『Shady Part of Me』から発展させたレンダリング技術によるもので、アートディレクターのEtienne氏とレンダーデベロッパーのJoran氏の緊密な協力によって生まれました。特に、Joran氏が中心となって開発された独自のエンジンが、このゲームのアートスタイルを支えています。
独自エンジンの探求
開発チームは、ゲームのために特別に開発された独自のエンジンとBlenderを使用しました。これにより、テクスチャ、アウトライン、レンダリングといった要素がエンジンによって手続き的に生成され、アーティストの表現の自由度を保ちつつも、スタイルからの逸脱を防いでいます。アートディレクターとレンダーデベロッパーは5年間にわたり、エンジン内のスライダーを調整しながら、この独特のビジュアルを作り上げていきました。
水彩画のような世界観の構築
ゲームの舞台となる「The Vessel」は、植物に覆われ、壊れた機械や暴走したロボットが散見される、広大で朽ち果てた船です。この世界は、生気がありながらもメランコリックな雰囲気を持ち、記憶と忘れられた歴史が探求を促します。アートディレクターのEtienne Thibault-Buisson氏は、限定的なパレットの使用、特にプライマリカラーとそれに付随する1、2色の組み合わせが、視覚的な情報の過負荷を防ぐのに役立ったと説明しています。また、奥へ行くほどモノクロームで均一な色調になり、パステル調の色合いが全体に穏やかでアンティークな雰囲気を与えています。広大さを表現するために、狭いエリアと広大なエリアとのコントラストや、カメラをズームアウトさせることで、プレイヤーを圧倒するようなスケール感を演出しました。
ゲームプレイを支えるアートディレクション
この手描きの質感を追求したアートスタイルは、単なる美学的な追求に留まらず、ゲームプレイにも影響を与えています。メトロイドヴァニアというジャンルにおいて、レベルデザインの理解や敵の攻撃パターンの認識は探索を促進するために不可欠です。Hourcade氏は、「アセットのエッジを少なくする」「エッジの方向性」といった細かなルールを設定し、特にアクションやプラットフォーム要素が強い場面では、アートがゲームプレイのサービスとなるように努めたと述べています。また、ゲームプレイに集中させるために、前景に余計なアセットを配置せず、ジオメトリをシンプルにし、プレイアブルな地面と背景の境界を明確にしました。
リアリズムからの脱却
ライティングも、リアリズムではなく物語性を重視して用いられています。「様式化されたレンダリングを選択することの利点の1つは、意図されたメッセージや可読性のために、リアリズムの制約から容易に解放されることです」とEtienne氏は語ります。2Dイラストレーションのように、ライティングは現実的なライティングシステムではなく、色によって直接管理されることがあります。また、時には2D画像がシーンに統合されることもあります。
制作における課題とアドバイス
開発チームは、絵画的なテクスチャを3D空間に重ねるというハイブリッドなアプローチで、数々の課題に直面しました。特に、物語の終盤に登場する、巨大なキャラクターの周りをツタの上を歩くシーンでは、エンジンに大きな負荷がかかりました。このシーンは、本来フラットなゲームプレイを想定して作られたエンジンでは球体をレンダリングできなかったため、ステージ全体をキャラクターの周りに回転させるという独創的な解決策が取られました。開発3年目には、ペイント調のシェーディングと厳格なカラーコントロールに焦点を当てるため、すべてのマテリアルシステムを改修するという大きな決断が下されました。この変更により、ポストプロセスで描画効果を適用する従来のワークフローよりも、一貫したカラーパレットの維持が容易になり、詩的で不気味なアートディレクションをより自由に追求できるようになりました。チームは、他のインディーチームに対し、「エンジンの標準的なシステムを完全に無視することをためらわないでください。目標を達成できるなら、それは大した問題ではありません」とアドバイスしています。
『MIO: Memories in Orbit』のアートが切り拓くゲーム表現の未来
『MIO: Memories in Orbit』が提示する、手描きの温かみと3Dの没入感を融合させたアートディレクションは、ゲーム業界における表現の可能性を大きく広げるものです。このユニークなアプローチは、プレイヤーに新鮮な視覚体験を提供するだけでなく、開発者に対しても、既存の技術やツールに囚われずに独創的な表現を追求することの重要性を示唆しています。
表現の自由度を最大限に引き出す独自エンジンの力
開発チームが独自に開発したエンジンは、単なる技術的な基盤に留まらず、アートディレクションを具現化するための強力な「筆」となりました。手続き生成されるテクスチャやアウトライン、そして綿密に調整されたカラーパレットは、アーティストの意図を忠実に、かつ効率的にゲーム世界に落とし込むことを可能にしました。これは、今後のゲーム開発において、よりパーソナライズされた、あるいは実験的なアートスタイルを実現するための重要なヒントとなります。固定概念にとらわれないツール開発が、クリエイティブな表現の幅を広げる可能性を示しています。
物語性を重視したビジュアルデザインの潮流
『MIO: Memories in Orbit』では、リアリズムを追求するのではなく、物語のメッセージや雰囲気の伝達を優先したビジュアルデザインが採用されています。ライティングや色彩設計が、現実の物理法則から解放され、感情やテーマを効果的に表現するために用いられている点は特筆すべきです。これは、ゲームが単なるエンターテイメントの枠を超え、より深い物語体験を提供するメディアへと進化していく中で、ますます重要になるアプローチと言えるでしょう。プレイヤーの感情に訴えかけるような、詩的で雰囲気のあるビジュアルは、ゲーム体験をより豊かにします。
「手触り感」のあるゲーム体験への回帰
デジタルでありながら、あたかも手で描かれたかのような「手触り感」を持つ『MIO: Memories in Orbit』のアートスタイルは、現代のゲームが提供する洗練されすぎたグラフィックとは一線を画します。この温かみのある、あるいは独特の「不完全さ」を持つビジュアルは、プレイヤーに懐かしさや親近感を与え、よりパーソナルな体験を促す可能性があります。技術の進化と共に、あえてアナログな表現を取り入れることで生まれる独自性は、今後のゲームデザインにおける一つの大きな潮流となるかもしれません。