
EU、AI新拠点に東欧を積極選定!チェコ・ポーランド等に「AIファクトリー」新設の狙いとは?
欧州連合(EU)は、人工知能(AI)モデル開発を支援する新たな6つの「AIファクトリー」の設置場所を発表しました。特筆すべきは、チェコ、リトアニア、ポーランド、ルーマニアといった東欧諸国が新たに選定されたことです。これにより、これまで一部の西欧諸国に偏りがちだったAIインフラの地理的な偏りが是正され、EU全体のAI技術開発の民主化と地域間格差の是正に向けた重要な一歩となります。
AI開発の新たな拠点:東欧への期待
新たに選定された6つのAIファクトリー
欧州のスーパーコンピューティング能力をAI開発に活用する「AIファクトリー」計画を統括するEUの機関は、新たに6つのプロジェクトを選定しました。これらの施設は2026年からチェコ、リトアニア、ポーランド、ルーマニアに展開される予定です。さらに、オランダとスペインにも追加のAIファクトリーが設置されます。EUはこれらのAIファクトリーを通じて、最大25,000基の先進的なAIチップを備えたAIトレーニング施設を整備し、EU域内の企業によるAIコンピューティングへのアクセスを民主化することを目指しています。
東欧諸国のAIインフラへの参画拡大
これまで(2024年12月および2025年3月に選定された13のAIファクトリープロジェクトのうち)、旧共産圏諸国に位置する施設はポーランド、ブルガリア、スロベニアの3カ所にとどまっていました。しかし、今回の選定により、ルーマニアも2024年12月の選定に含まれましたが、そのAIファクトリーは既にMareNostrumスーパーコンピューターを擁するスペインのバルセロナに位置しています。同様に、エストニアとチェコは、フィンランドのカヤニ(Lumiスーパーコンピューターが設置されている)を拠点とするAIファクトリーの関連メンバーとなっています。今回の発表は、これらの国々がより直接的にAIインフラの恩恵を受けられるようになることを示唆しています。
今後のAIインフラ拡張計画
欧州委員会と理事会は現在、スーパーコンピューター調達を規定するEuroHPC共同事業体の修正案を準備しており、最大5つのAIギガファクトリーの建設への道を開こうとしています。これらの追加計画中のAIトレーニングハブは、既存のAIファクトリーの最大4倍のAIチップを備え、非常に大規模なAIモデルに焦点を当てています。しかし、現時点ではEU各国が重要な資金調達に関する問題で足踏み状態となっています。
東欧シフトが示唆するEUのAI戦略の進化
AI開発における地理的公平性の追求
今回のAIファクトリーの選定において、チェコ、リトアニア、ポーランド、ルーマニアといった東欧諸国が新たに主要な拠点として選ばれたことは、EUのAI戦略における地域間格差是正への強い意志を示しています。これまで、AI開発のインフラは主に西欧に集中する傾向がありましたが、この動きはEU域内全体の技術的発展の均てん化を図る上で極めて重要です。これにより、東欧諸国の研究者や企業も最先端のAI開発リソースにアクセスできるようになり、イノベーションの裾野が広がる可能性があります。
AI技術主権と地政学的影響
AI開発能力の強化は、EUが掲げる「技術的主権」の実現に不可欠です。特に、大規模AIモデルのトレーニングには膨大な計算資源と高度なチップが必要とされますが、その供給は一部の国に依存しているのが現状です。東欧に新たなAIファクトリーを設置することは、EU域内でのAI開発能力を強化し、外部への依存度を低減させる戦略の一環と言えます。これは、地政学的な観点からも、EUの戦略的自律性を高める上で重要な意味を持ちます。また、AI人材の育成や関連産業の発展を東欧諸国で促進することで、地域経済の活性化にも繋がるでしょう。
今後の課題と欧州AIエコシステムの展望
AIファクトリーの設置は進むものの、EU各国が資金調達で足踏みしているという事実は、欧州におけるAIエコシステム構築の道のりが平坦ではないことを示唆しています。特に、AIギガファクトリーのような大規模プロジェクトには、継続的かつ安定した資金供給が不可欠です。今後、EUとして、また各国政府がどのようにこれらの課題を克服し、民間投資を呼び込んでいくかが、欧州のAI分野における国際競争力を左右する鍵となるでしょう。東欧諸国がAI開発の中心地として台頭することは、欧州全体のAIエコシステムに新たなダイナミズムをもたらす可能性を秘めています。