トランプ氏、仮想通貨王趙長鵬氏に恩赦:利権と疑惑の交錯

トランプ氏、仮想通貨王趙長鵬氏に恩赦:利権と疑惑の交錯

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ドナルド・トランプ米大統領が、世界最大の仮想通貨取引所バイナンスの創業者である趙長鵬(Changpeng Zhao)氏に対し、恩赦を行ったことが明らかになりました。趙氏は、マネーロンダリング(資金洗浄)や児童性的虐待、テロ資金調出に関連する犯罪へのプラットフォーム利用を阻止できなかった罪で昨年投獄されていました。ホワイトハウスの報道官によると、トランプ大統領は「憲法上の権限を行使し、趙氏への恩赦を執行した」と述べ、これは「バイデン政権による仮想通貨への戦争」に対する是正措置であると主張しました。

趙長鵬氏の有罪判決とバイナンスの法的問題

マネーロンダリング防止法違反

趙氏は、2024年9月に銀行秘密法(Bank Secrecy Act)違反により、4ヶ月の服役を終え釈放されました。これは、1970年に制定された同法における初の個人による服役事例となります。同法は、金融機関に対し顧客確認、取引監視、疑わしい活動の報告を義務付けています。検察側は、趙氏が2017年から2024年にかけて、この規則を無視し、バイナンスの成長を優先したと指摘しました。検察によると、バイナンスは7年間にわたり、アルカイダやイランに関連する制裁を含む米国の法律に違反する仮想通貨取引を150万件以上、総額約9億ドル(約1350億円)にのぼる取引を処理していました。

違法行為への利用と趙氏の謝罪

さらに、捜査当局は、薬物密売組織や児童性的搾取に関連するネットワークが、バイナンスを利用して不正資金を匿名で移動・換金していたと指摘しています。同取引所の緩い顧客確認システムと高リスク取引への寛容さが、違法行為の温床となっていたとされています。趙氏は2023年11月、マネーロンダリング監視義務違反の1件で有罪を認め、米国での事業運営を禁止されました。バイナンスも、司法省からのその他の告発を解決するために43億ドル(約6450億円)の罰金を支払うことで合意しました。趙氏は、法廷で「私はここで失敗した。私の失敗を深く後悔しており、申し訳なく思っている」と述べていました。

トランプ大統領による恩赦の背景と波紋

「恩赦の対象ではない」との認識

トランプ大統領は、恩赦の理由について「彼は何も悪くないと言う人が多い」「彼は4ヶ月服役したが、何も悪くないと言われている」「彼がやったことは犯罪ですらないと聞いている」と述べました。また、「多くの非常に良い人々からの要請で恩赦を行った」と付け加えています。

仮想通貨業界との関係と批判

トランプ政権は、仮想通貨業界に対して、前政権とは異なる友好的なアプローチを約束しており、選挙運動中に仮想通貨業界から多額の献金を受けていました。政権復帰後、同セクターの規制緩和を進め、国家仮想通貨準備金の設立を模索し、政府の仮想通貨関連執行チームを解散させました。趙氏への恩赦は、過去にも仮想通貨起業家への恩赦を行ってきた流れの一環と見られます。しかし、一部からは、この決定は利権が絡んだ「恩赦のための買収」スキームであるとの批判も上がっています。

利益相反の可能性

批判者たちは、トランプ大統領と趙氏、そしてバイナンスとの間に利益相反の可能性があると指摘しています。トランプ氏とその家族は、自身の仮想通貨企業「World Liberty Financial」を所有しており、バイナンスとは緊密な取引関係にありました。2025年3月には、World Liberty Financialが発行したドル連動型ステーブルコイン「USD1」がバイナンスのブロックチェーン上で発行され、バイナンスはこのUSD1を2億7500万人のユーザーに宣伝しました。さらに、アラブ首長国連邦(UAE)の投資ファンドがUSD1を20億ドル相当購入し、バイナンスの株式を取得しました。この取引だけで、トランプ家には数千万ドルの利益が生じる可能性があると報じられています。しかし、ホワイトハウス側は、トランプ氏の仮想通貨資産は信託に保管されており、彼自身が管理していないため、バイナンスとの利益相反はないと以前から主張しています。

本件が示唆する仮想通貨規制の課題

政治的影響力と規制の歪み

トランプ大統領による趙氏への恩赦は、仮想通貨業界が政治に与える影響力の大きさと、それが規制のあり方に歪みをもたらす可能性を示唆しています。趙氏の有罪判決は、仮想通貨取引所が国際的な金融規制を遵守することの重要性を浮き彫りにしましたが、今回の恩赦は、こうした法執行の努力を後退させる可能性があります。特に、トランプ大統領とその家族との金銭的なつながりが指摘される中で行われた恩赦は、「法の下の平等」という原則に対する疑問を投げかけます。

透明性と信頼性の確保の重要性

仮想通貨市場の健全な発展のためには、厳格な規制と透明性の確保が不可欠です。趙氏のケースは、たとえ創業者が有罪判決を受けたとしても、その影響力のある取引所が市場で存続し、さらには創業者が恩赦を受けるという前例を作りました。これは、投資家保護やマネーロンダリング防止といった、仮想通貨規制の根本的な目的を損なう可能性があります。今後の仮想通貨規制においては、政治的な影響力に左右されない、より強固で公平な枠組みの構築が求められます。

画像: AIによる生成