
測定機器とAIで、加齢による体力低下をより正確に検出!新たな「身体能力スコア(PiC)」開発
近年、高齢化社会の進展とともに、個々人の身体能力を正確に把握し、健康維持・増進に繋げることの重要性が増しています。しかし、従来の体力測定テストには、測定結果の相関性にばらつきがあり、加齢による身体能力の低下を包括的に捉えにくいという課題がありました。この課題を克服するため、イタリアのトリノ大学の研究チームは、カスタムメイドのハードウェアとソフトウェアプラットフォームを用いた新たな身体能力評価システム「Physical Capacity Score(PiC)」を開発しました。このシステムは、自動化されたデータ収集と分析を可能にし、より精緻な身体能力の評価を実現します。本記事では、この革新的なPiCスコアの開発とその有効性について、詳しくご紹介します。
PiCスコア:多角的な身体能力を捉える先進的評価システム
PiCスコアは、成人が行う一般的な体力測定テストを、自動化されたデータ収集・分析を可能にするプラットフォーム上で実施するものです。この研究では、プラットフォームの再現性評価、年齢による身体能力の違いの検証、そして異なる身体能力間の関連性の探求を目的として、812名(18歳〜68歳、女性63.5%)の成人を対象に調査が行われました。具体的には、指タッピング、握力、片脚立位、長座体前屈、5回椅子立ち上がり、YMCA 3分間ステップテストの6つのテストが実施されました。これらのテスト結果は、性別で標準化(zスコア)され、年齢層別に分析されました。また、各テスト結果の重複性を評価するためにピアソンの相関係数が、さらにデータ全体の構造を理解するために主成分分析(PCA)が用いられました。
テストの信頼性と再現性
開発されたプラットフォームを用いたテスト・再テスト分析では、ほとんどの項目で変動係数(COV)が10%未満、および級内相関係数(ICC)が0.90以上という高い再現性が示されました。これは、PiCスコアシステムが、測定条件によるばらつきが少なく、信頼性の高いデータを提供できることを意味します。
加齢による身体能力の変化
6つの身体テストすべてにおいて、年齢とともに身体能力が低下する傾向が見られました(p < 0.001)。しかし、その低下の度合いはテストによって異なりました。最も影響が少なかったのは握力(η² = 0.035)であり、最も影響が大きかったのは心肺持久力(η² = 0.389)でした。この結果は、加齢による身体能力の低下が単一の要因ではなく、複数の側面で現れることを示唆しています。
身体能力間の相関関係
各身体能力テストの結果間の相関関係は、全体的に弱いことが明らかになりました(rの範囲:0.036〜0.373)。これは、それぞれのテストが、重複することなく、身体能力の異なる側面を測定していることを示唆しており、包括的な評価には複数のテストが必要であることを裏付けています。
主成分分析による能力の分類
主成分分析の結果、身体能力は以下の3つの主要な構成要素に分類できることが示されました。1)「心肺持久力」(最大酸素摂取量と長座体前屈に関連)、2)「筋力とパワー」(握力と5回椅子立ち上がりテストに関連)、3)「センサー運動機能」(指タッピングと片脚立位に関連)。これらの要素は、それぞれ異なる感度で加齢による影響を受けることが確認されました。
PiCスコアが示す、個々人に合わせた健康管理の未来
本研究で開発されたPiCスコアシステムは、従来の体力測定の課題を克服し、加齢による身体能力の低下をより正確かつ多角的に評価できる可能性を示しました。特に、各身体能力テスト間の相関が低いという結果は、個人の健康状態を総合的に理解するためには、単一のテストに依存するのではなく、複数のテストを組み合わせることが不可欠であることを強調しています。例えば、心肺持久力と握力といった、一見関連が薄い能力であっても、それぞれが健康寿命に影響を与える重要な指標であるため、両方を評価することが望ましいと言えます。PiCスコアは、これらの異なる身体能力を標準化された指標で示すことで、個々の「強み」と「弱み」を視覚的に把握することを可能にします。これにより、画一的な健康指導ではなく、個人の特性に合わせた、より効果的な介入計画の立案が期待されます。
多様な身体能力の評価と加齢の影響
PiCスコアの分析から、心肺持久力、筋力・パワー、センサー運動機能の3つの要素が、それぞれ異なる速度で加齢の影響を受けることが明らかになりました。中でも心肺持久力は最も加齢の影響を受けやすく、31~40歳で既に有意な低下が見られました。一方、センサー運動機能は比較的加齢の影響を受けにくいものの、51~60歳で低下が見られ、転倒リスクなどとの関連が示唆されます。これらの知見は、年齢に応じた適切な運動習慣や健康管理の重要性を示唆しています。
個別化された健康アドバイスへの応用
PiCスコアは、個人の全体的な身体能力を示す単一のスコアだけでなく、各テスト項目の詳細な結果も提供します。これにより、個々人が自身の身体能力のどこに課題があり、どこを伸ばすべきかを具体的に理解することができます。例えば、レーダーチャートのような形式で結果を表示することで、視覚的に自身の強みと弱みを把握しやすくなります。この詳細なフィードバックは、個人のモチベーション向上や、よりパーソナライズされた健康増進プログラムの設計に貢献すると考えられます。将来的には、このPiCスコアが、加齢に伴う機能低下や健康リスクの予測、さらには個別化された予防医療の推進に不可欠なツールとなることが期待されます。