
9ヶ月の潜入取材:漁業が隠す、海の悲鳴と労働者の涙
写真家ニコル・タング氏による9ヶ月にわたる粘り強い調査は、東南アジアの漁業が抱える、人間と環境の両面における深刻な代償を浮き彫りにしました。この包括的なプロジェクトは、私たちの食卓に並ぶ魚がいかにして、しばしば見過ごされがちな過酷な労働条件や、壊滅的な環境破壊と結びついているかを明らかにしています。
調査内容:隠蔽された産業の実態
写真家ニコル・タング氏は、香港生まれで世界を股にかけるフリーランスの写真ジャーナリストであり、紛争や人道危機といった現代社会が抱える最も緊迫した困難な物語を捉えることでキャリアを築いてきました。彼女の作品は、主要な国際出版物で紹介され、現地NGOの活動を支援してきました。
15年間続くカルミニャック・フォトジャーナリズム賞
2009年に設立されたカルミニャック・フォトジャーナリズム賞は、世界中の報道されにくい問題に光を当てる長期調査プロジェクトの制作を資金面で支援しています。毎年、財団は地理的地域とテーマを選定し、受賞者には経済的支援だけでなく、編集の自由とロジスティカルなサポートも提供します。多くの他の賞とは異なり、カルミニャック賞は完成したプロジェクトに贈られるものではありません。むしろ、ジャーナリストが新たな活動を行うことを可能にするために特別に設計されています。受賞者は、取材が完了した時点で初めて正式に発表されます。
東南アジアの違法漁業と労働搾取の実態
タング氏による東南アジアの違法漁業と労働搾取に関するプロジェクトは、この賞の支援によって実現しました。この賞により、彼女はタイ、フィリピン、インドネシアの3カ国で9ヶ月間現地に滞在し、生態系の破壊と人間の搾取が公の視界からしばしば隠されている、隠された産業を記録することができました。
写真家としての新たな挑戦
タング氏にとって、この受賞は、戦争や避難民の犠牲を記録することに焦点を当ててきた従来の活動からの意味のある転換でもありました。環境問題へと焦点を移すことは、新しい主題に取り組むだけでなく、彼女の視覚的および物語的なアプローチを再考することを要求しました。彼女は「紛争ではない、全く異なる種類の課題に直面しました。乱獲、その環境への影響の視覚化、そして私たちが消費する食料が人間の命に与えるコストを理解する方法を考え直す必要がありました」と述べています。この変化は、彼女がペースを落とし、コミュニティに深く入り込み、外部からは見えにくい人々の物語に信頼を築くことを必要としました。彼女は、紛争報道に持ち込んだのと同じ共感と厳密さを、海洋における環境正義と人権という喫緊の課題に応用しました。
不透明な産業への潜入
彼女の調査は、世界の漁業サプライチェーンの中心でありながら、違法行為の影響を最も受けている国々の一つであるタイ、フィリピン、インドネシアへと及びました。彼女が発見した産業規模の漁業は、魚の資源を枯渇させ、生物多様性を脅かすだけでなく、消費者には見えない搾取的な労働慣行にも依存しています。「中国の漁船で働くために募集された漁師たちに出会い、彼らが目撃し、耐えてきた虐待の話を聞くことが、私にとって最も心に残りました。私たちが日々食べている魚介類の目に見えないコストを、それらが公の場から隠されているがために、軽視していることに気づいたのです」とタング氏は回想します。
考察:持続可能な漁業への道筋と写真の力
ニコル・タング氏の9ヶ月にわたる調査は、東南アジアの漁業が直面する環境破壊と人権侵害の深刻な結びつきを鮮明に示しました。これは単なる環境問題ではなく、経済的搾取と密接に結びついた複雑な課題です。
連鎖する搾取:環境と人権の交差点
タング氏の報告は、海洋資源の枯渇と労働者の搾取が、切り離せない関係にあることを示しています。産業規模の漁業は、持続可能な方法で魚が回復するのを待つことなく、膨大な量を海から収奪することで、急速な魚資源の減少に寄与しています。この背景には、労働力の搾取があります。漁船は、短時間でできるだけ多くの漁獲を上げるよう圧力を受けており、人々を公正に賃金で雇ったり、尊厳を持って扱ったりすることが、彼らにとっては利益にならないのです。この状況は、フィリピンのマグロ産業、インドネシアのサメ産業、そして地域全体での外国人労働者の過酷な労働条件に如実に表れています。
見えないコストの可視化:写真ジャーナリズムの役割
タング氏は、写真が、たとえ新しい事実でなくても、継続中の問題のリマインダーとして機能できると信じています。乱獲、違法・無報告・無規制(IUU)漁業、海洋での虐待は長年記録されてきましたが、彼女は、写真が政府や企業に変化を促すための圧力維持において、極めて重要な役割を果たすことができると主張します。一部の国では改善が見られるものの、まだ道は遠いのです。彼女の写真は、政府や商業企業が改善を続ける必要があることへのリマインダーとなることを願っています。
持続可能な未来への提言
タング氏のプロジェクトは、漁業という産業がいかに不透明で、しばしば「海での漁獲は無限ではない」という事実を無視しているかを浮き彫りにしました。この調査は、この暗く不透明な産業の、まだ明らかにされていない多くの側面を掘り下げるきっかけとなりました。彼女が目指すのは、写真を通じて、海洋とその中で働く人々が負担している隠されたコストを公の視界にもたらすことです。東南アジアの海域がますます争奪の的となる中、人間の生計と生態系の存続との間のバランスをいかに取るかは、ますます緊急の課題となっています。