
AIの盲点に光を当てる『AIが消し去る声』、インド国際映画祭でドキュメンタリー賞受賞
現代美術家でありAIの専門家でもある窪田望氏が監督を務めるドキュメンタリー作品『AIが消し去る声』が、インドで開催された「Delhi Shorts International Film Festival」にて、最優秀ドキュメンタリー賞(BEST Documentary)を受賞しました。この作品は、AI社会の発展の裏側で、意図せずともマイノリティが排除されてしまう現実を、裂手症(れっしゅしょう)当事者への取材を通して浮き彫りにしています。AI技術の進化がもたらす光と影、そして「分類の暴力性」という現代的な課題に光を当てた本作の受賞は、国際的な対話の広がりを期待させるものです。
AIが映し出す「分類の暴力性」とは
AI開発における「外れ値」の排除とその問題提起
AI開発の現場では、学習データの精度を高めるために、規格外のデータ、いわゆる「外れ値」は排除される傾向にあります。窪田監督は、AIが5本指でないデータを「エラー」として処理することに対し、それが単なる技術的な問題に留まらず、生まれつき指の数が異なる人々といったマイノリティの存在を「排除」してしまう構造につながるのではないか、という疑問を抱きました。この問題意識から、裂手症当事者やその家族、医療従事者へのインタビューを通じて、AI社会における「分類の暴力性」をドキュメンタリーとして描き出しています。
「Delhi Shorts International Film Festival」の意義
インド・ニューデリーを拠点とする「Delhi Shorts International Film Festival(DSIFF)」は、毎年世界中からショートフィルムやドキュメンタリー作品を募集し、短編映画文化の振興に貢献しています。商業映画が主流のインドにおいて、短編・ドキュメンタリー作品に特化した貴重なプラットフォームとして、新進気鋭のクリエイターたちの国際的な活躍を後押ししています。
国際的な評価:4度目の受賞
『AIが消し去る声』は、今回のDSIFFでの受賞を含め、すでに4つの国際映画祭・国際アートアワードで受賞しています。これには、アメリカのハリウッドで開催された「Hollywood Stage Script Film Competition」での「BEST SHORT DOCUMENTARY」受賞や、ニューヨークの「ICP Entertainment Film Festival」での「BEST HUMANITY FILM」受賞などが含まれます。これらの受賞歴は、本作が国際社会において高い評価を受けていることを示しています。
「外れ値」に価値を見出すアートの力
現代美術家としての窪田監督の視点
20年以上にわたりAI技術を研究し、多数のAI特許を持つ窪田監督は、AI開発における「外れ値」の排除という現実に対し、アートの力で再考を促します。自身のコンセプト「外れ値の咆哮」に基づき、社会から「不要」とされがちな存在や価値に光を当て、その本質的な価値を再評価する表現を追求しています。
AI社会におけるマイノリティの包摂に向けて
AI技術が社会に浸透するにつれて、そのアルゴリズムに内在する偏見や、意図しない排除が問題視されるケースが増えています。窪田監督の作品は、AI開発者や社会全体に対し、技術の進歩がすべての人々を包摂する形で進むべきであるというメッセージを投げかけています。マイノリティの声なき声を拾い上げ、AI社会における多様性と共生のあり方を問い直すきっかけとなることが期待されます。
今後の展望:AIと人間の共存
『AIが消し去る声』が国際的な賞を受賞したことは、AI技術の倫理的な側面や、社会への影響に対する関心の高まりを示唆しています。今後、AI開発においては、技術的な効率性だけでなく、多様な人々が共存できる社会の実現に向けた配慮がより一層求められるでしょう。窪田監督の作品は、AIと人間がより良い形で共存していく未来への重要な一歩となる可能性があります。