アイダホ州、ABA療法のメディケイド資金停止へ - 自閉症ケアの新時代を切り拓く
アイダホ州が、メディケイドによる応用行動分析（ABA）療法の資金提供を停止した最初の州となったことは、自閉症児のケア提供における重要な転換点を示しています。この決断は、請求の過大化や結果測定のばらつきといった懸念から、より測定可能で包括的なケアを提供するモデルへの移行を意味します。
アイダホ州の新しいケアモデル：CHISへの移行
ABAから行動介入（BI）と habilitiveスキル構築へ
アイダホ州は、ABA療法に代わるものとして、行動介入（BI）と habilitiveスキル構築を主軸とした「Children's Habilitation Intervention Services (CHIS)」モデルを導入しました。この新しい枠組みは、2025年7月に発効したアイダホ州行政法規第16.03.26.323条に明記されています。これにより、サービスの監督は従来の民間クリニックから、学校ベースの個別教育計画（IEP）チームへと移管されます。
教育的アクセスへの連携と不正リスクの低減
この新しいモデルでは、サービスの提供が「正常化」の目標ではなく、教育的アクセスに連携されるようになりました。これにより、ABA療法に関連する不正請求のリスクを低減し、より効果的なサービス提供を目指しています。アイダホ州は、連邦政府からの監査や返還請求を待つのではなく、先手を打ってこの改革を進めました。
財政的影響と過去のABA療法の課題
アイダホ州の改革により、自閉症サービスに対するメディケイド支出から年間700万～1000万ドルの節約が見込まれています。これらの資金は、障害を持つ成人、高齢者、そして複雑な医療ニーズを持つ子供たちに再配分される予定です。 過去には、7つの州がABA関連の請求問題により、連邦メディケイドの資金の一部を返済した経緯があり、アイダホ州は同様の事態を避けるための法改正（HB 345およびState Plan Amendment 23-0011）を行いました。
ABA療法の歴史的背景と倫理的考察
初期のABA療法とversiveな手法
ABA療法の発展における重要な人物であるOle Ivar Lovaasは、1965年の「Life」誌の記事「Screams, Slaps, and Love」で紹介されました。この記事では、電気ショックや体罰を含むversiveな訓練手法が描写されており、現代の倫理基準から見ると問題視される内容が含まれていました。 Lovaasの研究は、自閉症児を「心理学的な意味での人間ではない」と捉え、治療を「人間を構築する」努力と位置づけていました。
現代におけるABA療法の議論
現代においても、ABA療法の倫理的側面に関する議論は続いています。国際的な行動分析学の組織は、同意と自律性を重視する傾向を強めていますが、一部の米国内の基準では、コンプライアンスに基づいた方法論が依然として許容されています。 2022年には、ABAIが電気ショック装置の使用に公式に反対を表明しましたが、BACB（Behavior Analyst Certification Board）は、罰よりも強化を優先するものの、ポリシー上、例外が残されています。
新しいモデルの将来性と示唆
ケアモデルの変革の波
アイダホ州の新しいケアモデルへの移行は、自閉症ケアの分野における大きな一歩です。このモデルが他の州にも波及するかどうかは、今後の動向を注視する必要があります。ABA療法の歴史的背景や倫理的な問題点を踏まえ、より科学的根拠に基づき、かつ人権を尊重したケア提供体制の構築が求められています。
過去の教訓から学ぶ重要性
Ole Ivar LovaasやHans Aspergerといった初期の研究者の歴史的背景には、現代の医療倫とは相容れない側面が存在します。これらの歴史的文脈を無視することは、過去の過ちから学ぶ機会を失うことになりかねません。アイダホ州の決断は、過去の経験を反省し、より良い未来のケアモデルを模索する試みと言えるでしょう。
専門家の視点
Ronald L. Lindsay医師の経歴と貢献
本記事の著者は、退役した発達行動小児科医であるRonald L. Lindsay医師です。彼は、軍務、学術界、公衆衛生改革にわたるキャリアを通じて、神経発達科学と公平なケアシステムの進歩に生涯を捧げてきました。 彼の研究は、New England Journal of Medicineなどの主要な医学雑誌に掲載されており、NIH（国立衛生研究所）の資金提供を受けた研究では、自閉症および関連発達障害に対するエビデンスに基づいたアプローチを定義するのに貢献しました。
リーダーシップとアクセスの拡大
Lindsay医師は、オハイオ州立大学のNisonger Centerで医療ディレクターを務め、神経発達障害および関連障害におけるリーダーシップ教育（LEND）プログラムを主導し、学際的ケアの将来のリーダーを育成しました。 また、彼の「Ohio Rural DBP Clinic Initiative」は、サービスが不十分な郡におけるアクセス拡大で全米的な評価を得ました。 Madigan陸軍医療センターでは、軍人家族向けの$10 millionの自閉症リソースセンターであるJoint Base Lewis-McChord (JBLM) CARESを設立しました。