電力会社の気候変動対策、過去5年で悪化:シエラクラブの報告書で明らかになった「F」評価

電力会社の気候変動対策、過去5年で悪化:シエラクラブの報告書で明らかになった「F」評価

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近年、アメリカの主要な電力会社が気候変動対策において後退していることが、シエラクラブの最新報告書「The Dirty Truth」によって明らかになりました。2021年から毎年行われている同クラブの電力会社評価において、今年は初めて、対象となった電力会社の平均評価が「F」となりました。これは、多くの電力会社が石炭火力発電所の閉鎖や再生可能エネルギーへの移行を遅らせ、代わりにガス火力発電所の建設を推進している現状を浮き彫りにしています。

シエラクラブの評価基準と電力会社の現状

シエラクラブは、全米の主要な電力会社75社を対象に、以下の3つの基準で評価を行っています。

  • 2030年までに全ての石炭火力発電所を閉鎖する計画があるか
  • 新規のガス火力発電所を建設する計画があるか
  • 2035年までにどれだけのクリーンエネルギー容量を導入する計画があるか

報告書によると、2025年半ば時点で、電力会社が計画している太陽光・風力発電の導入量は、2035年までに化石燃料からの転換と新たな電力需要を満たすために必要とされる量のわずか32%に過ぎません。再生可能エネルギー導入計画を拡大している電力会社は65%いるものの、31%は計画を縮小しています。一方で、石炭火力発電所の閉鎖計画は2030年までに総発電容量の29%に留まり、昨年から減少しています。さらに、2035年までに建設を計画しているガス火力発電所の容量は118ギガワットに達し、2021年の計画値(51ギガワット)の2倍以上に増加しています。

データセンター需要とガス火力発電への偏重

電力需要の急増、特にAI(人工知能)関連のデータセンター需要の増加予測が、新たなガス火力発電所の建設を後押しする一因となっています。しかし、これらのデータセンター需要の多くは投機的なものであり、実際に稼働するかどうかは不確かな状況です。シエラクラブは、実現するかわからないデータセンター需要のために、電力料金を上昇させ、新たなガス発電所を建設することに警鐘を鳴らしています。一部の電力会社では、データセンター需要が具体的に確定するまで、新たな電力供給計画を進めない慎重な姿勢を示していますが、多くの電力会社は高成長シナリオに基づき、新規のガス発電所の建設を計画しています。

データセンター需要の拡大が電力業界に与える影響と今後の展望

今回のシエラクラブの報告書は、電力業界が気候変動対策において後退している現状を明確に示しています。特に、AIブームに牽引されるデータセンター需要の増加予測を根拠に、ガス火力発電への依存を深める動きは、長期的な視点で見ると持続可能ではありません。

データセンター需要の不確実性と電力会社のインセンティブ

データセンターの電力需要は、その多くがまだ見込み段階であり、将来的に必ずしも計画通りに需要が発生するとは限りません。それにもかかわらず、電力会社がガス火力発電所の建設を急ぐ背景には、発電所建設に保証された利益が得られるというインセンティブが存在します。これにより、電力会社はより低コストでクリーンな代替案を模索するよりも、既存の化石燃料インフラへの投資を優先する傾向があります。これは、顧客や気候変動に対して責任ある行動とは言えません。

再生可能エネルギー導入の遅れと機会損失

米国では、クリーンエネルギー導入を促進する税額控除措置が2026年半ばに終了する予定ですが、多くの電力会社はこの機会を十分に活用できていません。一部の電力会社(例:Xcel Energy)は、これらの税額控除を活用して再生可能エネルギーの導入を加速させていますが、大多数は計画を遅らせています。再生可能エネルギーの導入を拡大することは、電力需要の増加に対応し、上昇し続ける電力料金を抑制するための最も確実な方法です。しかし、電力会社がガス火力発電に固執することは、これらの機会を逃し、気候変動対策をさらに困難にする可能性があります。

今後の展望:規制と市場の役割

電力業界が気候変動対策で後退する現状に対し、規制当局と市場の役割がますます重要になっています。データセンター需要の予測については、より現実的かつ慎重なアプローチが求められます。また、電力会社が再生可能エネルギーへの移行を加速させるためには、インセンティブの再設計や、化石燃料への依存を抑制するような規制の強化が必要となるでしょう。気候変動の深刻化を防ぎ、持続可能なエネルギーシステムを構築するためには、電力会社、規制当局、そして私たち市民一人ひとりが、より責任ある選択をしていくことが不可欠です。

画像: AIによる生成