ダッチデザインウィーク2025:民主主義の再生からエイリアンまで、デザイナーが探求した5つの意外なテーマ

ダッチデザインウィーク2025:民主主義の再生からエイリアンまで、デザイナーが探求した5つの意外なテーマ

カルチャー現代アートダッチデザインウィークデザイントレンド民主主義エイリアン

毎年、ダッチデザインウィーク(DDW)のプログラムからは、いくつかの驚くべき共通テーマが浮かび上がります。2025年のEindhovenで開催されたこのイベントでは、公式テーマ「Past. Present. Possible」に加え、現代社会が抱える課題や未来への希望を反映した、5つのユニークなテーマが注目を集めました。本記事では、これらのテーマを深掘りし、デザイナーたちがどのようにこれらの課題に取り組み、新しい視点を提示したのかをご紹介します。

社会課題へのデザイン的アプローチ

民主主義の再生への試み

現代社会が直面する民主主義の危機に対し、多くのデザイナーがその再生に向けたデザイン的アプローチを試みました。Ketelheuspleinとその周辺会場では、互いの声に耳を傾け、意思決定に参加し、企業から主導権を取り戻すことを促すプロジェクトが多数展示されました。特に、子供たちが権力者へ宛てた手紙を展示したり、多言語で意見を記録・集約するデジタルプラットフォームを展開したりする「Designing Democracy: In Need of New Dialogues」は、市民参加の新しい形を提案しました。また、公的関与をゲーム感覚で促す「Unfair Play: Closing the Health Gap」や、重要な課題に関する「対話」シリーズも注目されました。Waag Futurelabによる「Connection Lost」の電話ブースでは、散らかったデスクトップを、巨大IT企業による独占的な支配からインターネットを取り戻す方法についての論考へと転換させていました。

「人間以上」の知性との共存

奇妙な生き物、半ば地球外生命体のような存在、そして曖昧なエンティティが多数登場した今年のDDW。Laura A. Dimaのインタラクティブアート「The Alien Between Us」では、温かく呼吸するロボットクリーチャーを抱きしめる体験が提供されました。見た目は不気味ながらも、どこか愛らしいこれらの存在は、デザイナーたちが「人間以上」の知性、すなわち自然または人工の知性について考察を深めていることを示唆しています。Isabell Bullerschenの「Isperia」は、VRを通じて、まるでおとぎ話のような生物と触れ合う体験を可能にしました。Sookyun Yangの「Exotic Species in the Robot Ecosystem」は、AIを用いて動物界の特性を融合させた非人間型ロボットの世界を想像させ、Fontys Research Group of Interaction Designによる「Human Zoo」は、より身近な形態のクリーチャーを提示しました。これらは、最も曖昧な姿であっても、生命を認識し保護しようとする人間の本能的な欲求を反映しています。

素材とテクノロジーの再発見

ウール素材の新たな可能性

高級素材としてだけでなく、ヨーロッパの意外な未活用廃棄物としてのウールに注目が集まっています。DDWでは、「Wool: Re(discovered)」展にて、地元のメーカーが手がける革新的なファッションデザイン、修復・生産ステーション、そしてパッチワークの羊で飾られたトークアリーナなどが展示されました。この展示は、地元の繊維がいかに忘れられ、その加工技術が失われてきたかを示す一方で、再生可能な実践の模範として再評価されるべきであると主張しています。Lottozeroによる肉用羊から取れる粗いウールを用いた新しい働き方、Christien Meindertsmaによる3Dプリントウール家具の新作、Philipp Remusによるウール製フットウェアのプロトタイプなども発表されました。さらに、Swedish School of TextilesのTomer Lahamは建築内装用途のブロックにウールを織り込み、Meike Schmitzはプロジェクト「Berta, Family and Friends」で特定の羊にインスパイアされたタペストリーを発表しました。

AI時代における人間の主体性

AI(人工知能)に焦点を当てた作品群は、特にEvoluon(Next Nature Museumがある建物)に集中していました。多くのテクノロジー企業がAIの自律性を強調する一方で、DDWの出展者たちは、ユーザーおよびクリエイターとしての「私たち自身の主体性」という問いに強い関心を示しました。Ado Ato PicturesとMarucha Sanchezによる「Oryza: Healing Ground」は、AIのバイアスに挑戦し、意図的に黒人データで学習・出力されたモデルを作成しました。Yijia LiによるVR協力ゲーム「Aftermath」は、人間の創造性が衰退したAI支配の未来社会における、人間とAIのパワーバランスを探求しています。また、Vera van der Burgは、生成AIを陶芸制作に取り入れ、「計算論的論理と粘土の物質的受容性」との相互作用を探求しました。これらの作品は、AIの進化が加速する中で、人間が主体性をどのように維持・発揮していくかという重要な問いを投げかけています。

「時間」をめぐるデザイン表現

スローネス(遅さ)の概念に加え、「時間」と「テンポ」が2025年の重要なテーマとなりました。Design Academy Eindhovenのソーシャルデザインプログラムの責任者Nadine Bothaが指摘するように、若手デザイナーは、新しいオブジェクトを制作する環境負荷を避け、作品を「成果物」ではなく「アクティベーション(活性化)」として捉えたいという願望から、時間ベースのメディア(ビデオ、サウンド、デジタル作品、パフォーマンスアートなど)を以前にも増して制作しています。Anna Zoe Hammの「Tenderlymilitant.exe」は、美しいオブジェクト(5つのハイブリッドなほうき型武器)と、パフォーマンスによって作品を完成させる振付を組み合わせています。また、 Aleksandra Nazarovaの「Chronotopic Fractures」は地球の自然なリズムと人間によって作られたシステムの間の衝突を探求し、Gil Monteverdeの「Atmospheres from Below」は地震データを振動に変換し、Ze Qiuの実験映画「Who Stole the Sky?」はモンゴルにおける植民地主義の「遅い暴力」を捉えようとしています。これらの作品は、時間そのものをデザインの探求の中心に据えています。

考察:デザインは未来をどう描くか

テクノロジーと人間性の調和

AIやデジタル技術が急速に進化する現代において、デザイナーたちは技術の進歩そのものだけでなく、それが人間社会や個人の主体性に与える影響を深く考察しています。単に新しい技術を提示するのではなく、それらとの関わり方、AI時代における人間の役割や創造性の重要性を問い直す作品が多く見られました。これは、テクノロジーの進化がもたらす恩恵を享受しつつも、人間中心の価値観を失わないための、デザイン界からの重要なメッセージと言えるでしょう。

サステナビリティと素材の再評価

ウールのような地域固有の素材の再評価や、廃棄物の活用といったサステナビリティへの取り組みは、単なる環境配慮を超え、新たな価値創造の源泉となっています。失われた技術や知識を掘り起こし、それを現代のデザインに融合させることで、素材の持つポテンシャルを最大限に引き出す試みは、今後のデザインの方向性を示すものと言えます。これは、持続可能な社会の実現に向けた、デザインの具体的な貢献のあり方を示唆しています。

社会課題へのデザインの役割

民主主義や社会的な包摂といった、より抽象的で複雑な課題に対して、デザインがどのように貢献できるかを探る動きも顕著でした。対話や参加を促すデザインは、社会的な課題解決におけるデザインの可能性を広げます。デザイナーは、単なる美的な造形や機能的な製品の提供者にとどまらず、社会的な対話の触媒となり、より良い未来を共創するパートナーとしての役割を担うことが期待されています。

画像: AIによる生成