
「僕の二番目の叔父」から見るショート動画の感情分析:視聴者の共感とインフルエンサーの影響力
現代のデジタルコミュニケーションにおいて、ショート動画は主要なメディアへと成長しました。本稿では、特に中国で話題となった「僕の二番目の叔父」という動画を事例に、視聴者がインフルエンサーのショート動画に対してどのように感情を表現し、共感を形成していくのかを、収集したコメントと弾幕(画面上に表示されるコメント)データを分析することで明らかにします。この研究は、ショート動画が持つ感情的な癒やしやメンタルヘルスへの貢献の可能性を示唆するものです。
視聴者の「まなざし」と感情の軌跡
動画の概要とデータ収集
本研究では、2022年7月25日から8月25日にかけてBilibili(ビリビリ)プラットフォームで配信された「僕の二番目の叔父」に関する46,436件のコメントと3,000件の弾幕データを収集しました。これらのデータは、動画がバイラルヒットした直後に急増し、その後は安定したレベルに落ち着くという、バイラルコンテンツ特有のライフサイクルを示しています。データ収集にあたっては、個人を特定できる情報は削除されました。
トピック分析(LDA)によるテーマ抽出
Latent Dirichlet Allocation(LDA)という手法を用いて、コメントと弾幕データを分析した結果、視聴者の関心事が時間とともに多様化していく様子が明らかになりました。初期の5日間では6つの主要トピックが抽出されましたが、1ヶ月後には8つのトピックへと増加しました。弾幕データからは3つの主要トピックが抽出され、これらのトピックは視聴者が動画のどのような側面に注目し、感情を寄せていたかを示しています。
感情分析(SnowNLP, ChatGPT)による感情の解読
SnowNLPを用いた分析では、コメントの81.99%がポジティブな感情を示し、ネガティブな感情は18.01%に留まりました。特に、「モチベーション」といったポジティブな感情が顕著であり、多くの視聴者が動画から「勇気づけられた」「インスピレーションを受けた」と感じていることが示唆されます。ChatGPTを用いた詳細な感情分析では、「ノスタルジア」が弾幕コメントで最も多く観測され、動画が視聴者の集合的な記憶や感情的な共鳴を呼び起こしたことが示されました。
「まなざし」の変容と共感の形成メカニズム
インフルエンサー動画における「まなざし」の特異性
従来の「まなざし」理論は、権力関係や視線の対象化に焦点を当ててきましたが、本研究で分析したインフルエンサーのショート動画における「まなざし」は、より能動的で双方向的な性質を持っています。視聴者は「僕の二番目の叔父」の人生経験や困難に立ち向かう姿勢に共感し、自身の経験と重ね合わせることで、単なる傍観者ではなく、物語の一部として関与しています。これは、視聴者が自らの意思で感情を表現し、共有する「スーパー・パノプティコン」とも言える状況を生み出しています。
共感コミュニケーションの拡大とその応用
「僕の二番目の叔父」の物語は、視聴者間に強い感情的な共鳴を呼び起こし、「カスケード効果」を通じて共感コミュニケーションを拡大させました。視聴者はコメントや弾幕を通じて互いの感情を共有し、肯定的な感情が連鎖的に拡散することで、短時間で集団的な感情解放と共感が形成されました。この現象は、ショート動画が持つ、人々に心の安らぎや支えを提供する「感情的価値」の重要性を示しています。この「感情的価値」は、今後のコンテンツ評価やプラットフォームの運営、さらにはメンタルヘルス支援の分野においても、重要な指標となり得ると考えられます。
今後の展望と課題
本研究は、「僕の二番目の叔父」という単一の事例に焦点を当てたため、その結果の一般化には限界があります。今後は、異なるプラットフォームや文化圏におけるショート動画の視聴者行動を比較分析することが、より普遍的な知見を得るために重要です。また、アルゴリズムによるコメントの表示順序の影響や、資本・プラットフォームによる操作の可能性など、さらなる技術的・社会的な側面からの検討も必要とされます。さらに、ジェンダーといった社会的な要因が視聴者の感情的関与にどのように影響するかを探ることも、今後の研究課題として挙げられます。