飢餓と隣り合わせの大量廃棄：米国の農場補助金が招く食品ロス1億6千万トンの衝撃

世界食料デーに発表された新たな報告書によると、アメリカの納税者は年間1億6000万トンもの食料を無駄にするシステムに巨額の資金を投じていることが明らかになりました。これは2億8780万人が食べるのに十分な量ですが、同時に4700万人のアメリカ人が食料不安に直面しています。本記事では、この隠された食料浪費の実態と、それが示唆する食料システムの本質的な課題に迫ります。

アメリカの食料システムに潜む巨額の食品ロス：補助金が生む矛盾

補助金が向かう先：穀物から家畜飼料へ

アメリカの農産物補助金は、食料生産よりも家畜飼料の生産に重点が置かれています。近年の調査では、穀物補助金に32億ドル、大豆補助金に19億ドルが費やされており、その大部分は集約的家畜飼育施設（CAFOs）に恩恵をもたらしています。その結果、アメリカのトウモロコシの30％、大豆の97％（飼料用ミールとして）が、人間が直接消費する食料ではなく、家畜の飼料として利用されています。

驚異的な食品ロス：1億6千万トンもの食料が失われる実態

人間が直接食べられる穀物2億270万トンが家畜飼料に回され、その非効率な変換プロセスにより、年間1億6000万トンもの食料が失われています。これは、家庭、レストラン、小売店からの食品ロスをすべて合計した量をも上回ります。家畜は穀物のカロリーを効率よく肉や卵、乳製品に変換できず、100カロリーの穀物を投与しても、人間の食料連鎖に入るのはわずか3～25カロリーに過ぎません。

食料不安と補助金のギャップ：4700万人が飢える一方で

アメリカでは、4700万人が食料不安に苦しむ一方で、納税者の税金は、これらの人々を養うための食料ではなく、非効率な家畜飼料生産システムを維持するために使われています。報告書は、これを「農業政策」ではなく「農業上の不正行為」と厳しく批判しています。

非効率な「穀物→食肉」変換と環境への負荷

家畜への穀物飼料の大量供給は、土壌劣化、水質汚染、生物多様性の低下、気候変動の加速を招く化学物質多用型の単一栽培を助長しています。特に、鶏肉生産における温室効果ガス排出量の67％は、家畜の飼育ではなく、飼料生産に起因するとされています。

「食料優先」への転換が示唆する未来：持続可能な農業への道筋

農業政策の抜本的見直し：食料第一の農作物補助金へ

報告書は、農作物補助金のあり方を根本的に見直す「フード・ノット・フィード（Food Not Feed）」キャンペーンを提唱しています。具体的には、飼料用作物の生産を支える公的支払いを段階的に廃止し、人間が直接消費する果物、野菜、穀物、豆類を生産する、より多様で「食料第一」の農業への支援を転換することを求めています。また、人間が食べられる作物を動物飼料に使用する量を削減するための目標設定や、透明性のある報告体制の確立も提案されています。

食料システム全体の再構築：農家と消費者の双方に利益をもたらすために

この改革は、農家が国際的な飼料市場ではなく、アメリカ国内の消費者に食料を供給する市場で成功できるようにすることを目指しています。これにより、国内農地を食料生産に優先的に利用し、土壌や生態系を守り、気候変動への抵抗力を高めることが期待されます。さらに、学校や病院などの公共調達において、地域で生産された栄養価の高い持続可能な農産物を優先することを義務付けることで、地域経済の活性化も図られます。

持続可能性と食料主権：現代社会が直面する本質的課題

アメリカの食料システムにおける巨額の食品ロスは、単なる非効率性の問題ではなく、持続可能性、食料主権、そして倫理的な食料生産といった、現代社会が直面するより広範な課題を浮き彫りにしています。食料を「人間のため」に生産するという原則に立ち返り、補助金政策や農地利用のあり方を見直すことが、将来の食料安全保障と地球環境の保全のために不可欠です。