なぜM&M'sから「青と茶色」が消える?自然由来への転換が突きつける食品業界の難題

なぜM&M'sから「青と茶色」が消える?自然由来への転換が突きつける食品業界の難題

ライフスタイル無添加M&M'sマース食品添加物天然素材企業戦略

世界中で愛されるチョコレート菓子「M&M's」が、大きな変革期を迎えています。製造元のマース社は、製品に使用している人工着色料を排除し、2028年までに天然由来の代替品へ完全に切り替える計画を発表しました。消費者のクリーンラベル(添加物への懸念)に対する意識の高まりと、規制当局の動きに応じる形での舵切りですが、この「色」を変えるという決断の裏には、想像以上に複雑な技術的・経済的課題が隠されています。

M&M'sのカラー刷新計画とその背景

なぜ「青と茶色」がターゲットなのか

今回の変更で特に注目すべきは、青色と茶色が一時的に姿を消す点です。赤や黄色については、すでにターメリックやビートなどの天然由来成分での再現に成功していますが、青色の再現には「スピルリナ」という藍藻類を使用する必要があります。このスピルリナは従来の合成着色料とは異なり、水に完全に溶けない特性があるため、製造ラインの噴霧ノズルを詰まらせたり、設備に付着したりといった技術的な問題を抱えています。また、茶色は青色をベースに作られているため、青色の安定的な抽出ができない間は、連動して茶色も取り除く必要があるのです。

コストと供給の現実

天然成分への移行は、単なる材料の切り替え以上のコストを伴います。例えば、着色料の原料となる成分の価格差は顕著で、従来品と比較して数倍以上のコストがかかるケースも珍しくありません。マース社は、これらのコスト増を抱えながらも、2028年という期限を目標に全6色の完全移行を目指しています。

高まる「クリーンラベル」の圧力

今回の判断の背景には、健康面への配慮を求める消費者からの声と、政府レベルの政策転換があります。特に米国では、合成着色料と小児の神経発達上の懸念を関連付ける議論が長く続いており、当局による段階的な削減の動きも業界を強く後押ししています。マース社の取り組みは、単なるブランドの刷新ではなく、食品業界全体が不可避的に向かっている「脱・添加物」という巨大なトレンドの象徴と言えるでしょう。

本件が示唆する食品業界の今後の展望

技術革新がブランドの「色」を決定づける時代へ

今回の事例は、食品メーカーにとって「原材料の変更」がもはや単なるレシピ調整ではなく、設備設計や供給網の刷新を伴う「高度なエンジニアリング」であることを浮き彫りにしました。天然由来成分の安定的な調達と、それを利用するための生産ラインの最適化は、今後の食品業界における競争力の源泉となります。スピルリナのような困難な素材をいかに使いこなすかという技術力が、将来的に商品の品質と価格競争力を大きく左右することになるでしょう。

ブランド体験と消費者の期待のバランス

長年親しまれてきた「M&M's」のアイコニックな外観が変化することは、ブランドにとって大きなリスクにもなり得ます。しかし、今回のように「自然への回帰」という明確な価値提案を行うことは、ブランドの信頼性を高め、次世代の消費者に選ばれ続けるための前向きな投資と捉えられます。社会が「安心・安全」を求める中で、いかに伝統的なブランドの価値を損なわずに変革を実行できるか――この挑戦の成否は、世界の菓子業界における「成功のロールモデル」として、今後の業界全体の指針となるはずです。

画像: AIによる生成