「曲線の女王」の意外な素顔とは?ザハ・ハディッドの遺品から紐解く10の知られざる物語

「曲線の女王」の意外な素顔とは?ザハ・ハディッドの遺品から紐解く10の知られざる物語

カルチャー現代アートザハ・ハディッド建築デザインアーカイブ建築家

建築界に革命を起こしたザハ・ハディッドが逝去してから、2026年3月31日でちょうど10年が経過しました。この節目の年に、ザハ・ハディッド財団のディレクターを務めるアリク・チェン氏が、同財団が保管する膨大なアーカイブから、彼女の類まれなる才能と知られざる人間味を象徴する10のアイテムを選定しました。この記事では、世界を驚かせ続けた建築家のクリエイティブな軌跡と、その素顔に迫る珠玉のコレクションを紹介します。

ザハ・ハディッドの人生を物語る10のアーカイブ

Malevich's Tektonik(1976年)

彼女の学生時代の作品であり、20世紀ロシア・アヴァンギャルドの影響を色濃く反映しています。建築を重力という制約から解放しようとする試みは、後の彼女のスタイルへと繋がる原点と言えるでしょう。長らく紛失したと考えられていた貴重な最初のペインティングです。

学生時代のスケッチブック(1977年)

1976年から1977年にかけてのロンドンの建築協会(AA)在籍時の記録です。博物館プロジェクトの構想過程で、彼女自身のルーツであるイラクの土地をテーマにした図面が含まれており、母国への深い愛着が示唆されています。

ザ・ピークの全体アイソメトリック図(1983年)

香港のレジャークラブのコンペで勝利した提案です。ザハは従来の建築図面を限界があるものと考え、自身の空間構想を表現するために絵画を手法として用いました。この作品は彼女を一躍建築界の最前線へと押し上げました。

手作りペイントジャケット(1985年頃)

建築だけでなくファッションも自身の表現の一部としていた彼女が、自らデザインし制作したリネンジャケットです。自身のスケッチに見られるモチーフが描かれており、裾には遊び心あふれる巨大な「キョロキョロ目(googly eye)」が付けられています。

ヴィトラ消防署のプレゼンテーションボックス(1991-1993年)

彼女の最初の永久建造物であるドイツのヴィトラ消防署のデザインプロセスを記録したアクリルボックスです。当時の彼女はイラク国籍であったため、空港での荷物検査に時間がかかることが多く、設計資料を可視化して説明を容易にするための「茶目っ気のある」工夫でもありました。

アーカイブが示すザハ・ハディッドの創造性と人間性

建築思想の「継続性」と「変容」

今回のアーカイブ公開によって改めて浮き彫りになったのは、彼女のキャリア初期から一貫して見られる「脱構築」へのこだわりです。学生時代のMalevich's Tektonikに見られる重力を超越したような感覚が、後の大規模な公共建築でどのように現実の素材と構造へ翻訳されていったのか、その連続性を確認できる貴重な資料群となっています。これは単なる作品リストではなく、彼女の脳内で空間がどう形成されていたかを読み解くための「思考地図」であると言えます。

個人の人間味が物語る現代的価値

アーカイブには、建築の模型だけでなく、自作のジャケットや友人からの贈り物である木彫りの山羊までが含まれています。この「公私混合」の保管姿勢は、彼女の建築やデザインが、理論だけでなく、彼女自身の経験、愛着、時には遊び心という個人的な感情と密接に結びついていたことを証明しています。ザハ・ハディッドという伝説的な存在を「スター建築家」として固定化するのではなく、一人の人間としての温かみとユーモアをアーカイブが伝えている点は、今後多くの建築家やデザイナーが遺産を遺す際、非常に重要な指針となるでしょう。

画像: AIによる生成