
AIが生物兵器開発を加速?パンデミック対策の「盲点」に潜む新たな脅威
これまで、生物学的脅威は、自然発生、研究室での事故、あるいは伝統的な生物兵器として想定されてきました。しかし、近年、AI(人工知能)と合成生物学の急速な進歩により、これらの脅威の様相は一変しています。特に、市販されているAIモデルが悪意ある目的に利用されることで、これまでとは比較にならないほど容易に、そして巧妙に生物兵器が開発されるリスクが高まっています。これは、従来のパンデミック対策や生物兵器防御戦略が見落としている「盲点」であり、早急な対応が求められています。
AIによる生物兵器開発の現実:進化する脅威
AIが「設計」する危険なタンパク質と新規生物
2025年10月、マイクロソフトの研究者たちは、生成AIツールが悪用されれば、生物セキュリティを回避する危険なタンパク質を設計できることを報告しました。さらに驚くべきことに、これらのAIが設計した配列は、DNA製造業者が用いるスクリーニングシステムをすり抜ける可能性が示唆されています。これは、AIが単に既存の情報を解析するだけでなく、新たな、そして危険な生物学的物質を「創造」できる能力を持っていることを意味します。
既存の安全対策を回避するAIモデル
2025年2月には、Arc Instituteの研究者らが、128,000ものゲノムデータで訓練されたAIモデル「Evo 2」を発表しました。このモデルは、遺伝子変異がどの程度疾患を引き起こすかを90%の精度で予測できます。さらに、2024年に先行モデルが公開されてからわずか数週間で、ユーザーは開発者が意図的に除外したウイルスのデータを追加することで、安全対策を回避しました。同年3月には、Anthropic社の「Claude Opus 4」モデルが、専門知識のないユーザーでも生物兵器生産計画を大幅に向上させられることが報告され、同社は初めて最高レベルのセキュリティプロトコルを発動しました。OpenAIの「o3」モデル(2025年4月リリース)も、専門家が認識されている生物学的脅威を再現する計画を効果的に支援できます。
「タブー」だけでは防げない進化する脅威
これまで、生物兵器の使用は「タブー」視され、その開発と使用は抑制されてきました。このタブーは、生物兵器に対する嫌悪感、内在するリスク、そして生物兵器禁止条約(BWC)といった国際規範によって支えられてきました。しかし、AIと合成生物学の融合は、このタブーの有効性を揺るがしています。AIにより、生物兵器開発の知識的ハードルは著しく低下し、計算による設計と物理的な合成の間の障壁も低下しています。これにより、技術的な困難さが拡散を抑制するという従来の仮定は通用しなくなりつつあります。
「オールハザード」アプローチの限界
アメリカの生物防衛戦略は、自然発生のパンデミックと意図的な生物兵器という、根本的に異なる脅威を同一視する「オールハザード」アプローチに陥っています。このアプローチは、病原体脅威が類似の進化制約を受ける前提で戦略を立てていましたが、AIによる生物学的脅威は、監視システムを回避し、既存の治療法を無効化し、そして統合された生物防衛の前提を覆す可能性があります。パンデミック対応に重点を置いた予算配分や組織体制は、AIによって設計された病原体への対応能力を著しく低下させています。
AI時代における生物防衛の再構築
検出アーキテクチャの抜本的見直し
現在のCDC(疾病予防管理センター)によるゲノム監視ネットワークは、自然発生の変異株を検出するために最適化されていますが、AIによって設計された既知の生物と相同性のない配列を検出することはできません。これに対抗するには、DNA合成注文、実験機器の販売、研究発表パターンを監視する、全く異なるセンサーネットワークが必要です。しかし、これらの能力はCDCのパンデミック監視の範囲外であり、連邦政府からの投資もほとんど受けていません。
医療対策の再考:標的型攻撃への対応
パンデミック対応では、迅速なワクチン開発や広範な抗ウイルス薬の備蓄が重視されますが、これは敵対者が既存のワクチンを回避するタンパク質を設計したり、治療法への耐性を獲得させたりする可能性を考慮していません。AIによって設計された病原体は、既存の対策を無効化する可能性があり、これに対応するための具体的な方策は、現在のフレームワークでは十分ではありません。
「原因究明」と「抑止」の重要性
自然発生のパンデミックには原因究明の必要はありませんが、意図的に放出された生物兵器には、比例した対応と抑止力のための原因究明が不可欠です。しかし、アメリカの国家生物防衛戦略には、原因究明能力に関する議論が欠如しており、これはロシア、北朝鮮、中国、イランといった国家の生物兵器プログラムを認識しているにもかかわらず、極めて深刻な見落としと言えます。
今後の展望:AI時代の生物防衛戦略の必要性
AIと合成生物学の融合は、国家安全保障に対する喫緊の脅威をもたらしています。市販のAIシステムは、専門家レベルの生物兵器開発を可能にし、DNAスクリーニングを回避する能力を持っています。アメリカの生物防衛戦略が、この意図的な生物学的脅威を自然なパンデミック準備と混同していることは、危険な盲点を作り出し、誤った投資を優先させています。この問題に対処するには、既存の組織改革、AIを活用したDNA合成スクリーニングインフラの構築、そして生物設計ツールの展開前評価の義務化が必要です。これらの改革は、規制緩和を目指す政権下でも、断片化された努力を統合し、安全保障の基盤を強化するものです。現在の防御策は、AIによる生物兵器という新たな脅威に対して不十分であり、行動を起こすには猶予がありません。我々は、次の侵入テストで脆弱性が露呈するのを待つのではなく、今、この瞬間に直面している現実に対応しなければなりません。