
OMA重松象平が挑む「キノコ栽培」の建築的回答──メキシコCasa Wabiの楕円形パビリオンが示すもの
建築設計事務所OMAの重松象平氏が、メキシコの芸術財団「Fundación Casa Wabi」のために設計した、キノコ栽培のための楕円形パビリオンが2026年3月に公開されました。芸術と自然、そして地域コミュニティを融合させるCasa Wabiの敷地内に誕生したこのユニークな建造物は、単なる生産施設を超えた新しい交流の場として注目を集めています。
メキシコの地に誕生したキノコ栽培のパビリオン
Casa Wabiでの新たな取り組み
Casa Wabiは、アーティストのボスコ・ソディ氏によって設立された、多分野のアーティストと地域コミュニティの対話を促進する財団です。このたび完成したパビリオンは、食とアート、自然を結びつけ、地元の人々へキノコの栽培プロセスを伝える教育的な役割も担う施設として計画されました。
環境に配慮した楕円形の構造
ニューヨークのOMAオフィスが手がけたこの建築は、約200平方メートルの自己支持型構造です。楕円形の形状はキノコ栽培に必要な内部空間を最適化するために設計されており、ベース部分を絞ることで、地元の樹木であるグアヤカンへの干渉を最小限に抑えるよう配慮されています。
機能美を追求したインテリア
ドーム状の内部は、結実室、培養室、貯蔵室という3つの機能的な空間に分けられ、それらが中央の集会スペースを取り囲む形になっています。壁面は段状になっており、地元職人が手作りしたテラコッタ製のポットを配置できる棚として機能し、その栽培プロセスをパノラマのように見渡すことができます。
経年変化を刻む素材選び
外装には、現場の鉄分を多く含む水と反応するように設計された、あえて粗い質感のコンクリートが使用されています。麻布を押し当ててテクスチャをつけた外壁は、時間の経過とともに化学変化を起こし、環境とともに錆びて外観が変化していくことを前提としています。
建築と農業の交差点が示す未来のランドスケープ
「生産」と「鑑賞」を両立させる空間設計
本件で最も特筆すべき点は、効率性が求められる「栽培」というプロセスを、あえて「鑑賞・体験の対象」へと昇華させている点です。パノプティコン(全方位監視)的な配置により、栽培の科学的側面を視覚的に開かれたものにしています。これは、農業用施設を単なるバックエンドの機能空間とせず、文化的な体験装置へとアップデートした建築的な挑戦と言えるでしょう。
地域との共生を加速させる建築の役割
また、この建築が重要なのは、グローバルな設計事務所であるOMAが、地元の伝統的なテラコッタ(職人の手仕事)や、現地の自然環境(気候や樹木)に対して極めて繊細にアプローチしている点です。建築家が「完成品」を置くのではなく、環境との化学反応で「変化し続ける」素材を採用したことは、今後のサステナブルな建築において、環境との調和に関する一つの重要な解を示しています。単にエネルギー効率を高めるだけでなく、その土地の歴史や文化に深く根ざしたコミュニティ形成の触媒として、建築がいかに貢献できるかというモデルケースとなるはずです。