
コロナ禍でも thyroid cancer(甲状腺がん)の診断数は減少しなかった? 2017年〜2023年のデータから見える実態
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、医療提供体制に大きな影響を与え、多くの国で外来患者数が激減しました。甲状腺の結節評価や診断は主に外来で行われるため、このパンデミックが甲状腺がんの新規診断数にどのような影響を与えたのか、関心が寄せられていました。本記事では、2017年から2023年までの期間における、ある包括的がんセンターでの甲状腺がんの診断、治療、および予後の傾向を分析した研究結果を紹介します。
パンデミック下での甲状腺がん診断の動向
研究の概要
この研究では、2017年1月1日から2023年12月31日までの間に、ある包括的がんセンターで新たに甲状腺がんの病理診断を受けた成人患者のデータが分析されました。研究期間は、パンデミック前の期間(2017年1月~2020年3月)、パンデミック初期(2020年4月~2021年3月)、およびその後の「コロナ禍」の期間(2021年4月~2023年12月)の3つに分け、それぞれの期間における甲状腺がんの発生率の推移が評価されました。また、腫瘍の大きさ、手術の範囲とタイミング、および診断から1年以内の全死因死亡率も副次的な評価項目として調査されました。
診断数の推移
研究対象となった1,031人の患者(女性68%、白人92%、平均年齢52歳)のうち、年齢および性別で調整された甲状腺がんの発生率は、2017年の10万人あたり34人から2022年には15.6人にまで一貫して減少しました。これは、年平均14.4%の減少率に相当します。2023年には診断数に若干の増加が見られましたが(10万人あたり21人)、依然として2017年の水準を38%下回っていました。興味深いことに、腫瘍の大きさ、手術の範囲、性別比、または診断から1年以内の全死因死亡率には、期間による有意な差は観察されませんでした。
パンデミック初期の短期的な影響
COVID-19の規制が最も厳しかった2020年3月から6月にかけては、前年同月比で平均発生率が41%減少しました。しかし、この短期的な減少の後、同年の後半には月間発生率が増加し、2020年全体の年間発生率の傾向には全体として変化は見られませんでした。
考察:パンデミックが甲状腺がん診断に与えた真の影響
診断数減少の背景と継続性
本研究の結果は、パンデミックによる医療提供体制への影響にもかかわらず、甲状腺がんの診断数の減少傾向が継続していたことを示唆しています。これは、パンデミック初期の急激な外来患者数の減少という初期の仮説とは異なる結果です。むしろ、2017年から2022年にかけて年間約14.4%という着実な減少傾向が続いており、2023年に見られた増加は、パンデミック中に診断が遅れた症例の是正、あるいは長年の減少を経た後の新たな安定状態を示している可能性があります。
腫瘍の大きさや死亡率への影響の欠如
注目すべきは、診断数の増減にかかわらず、腫瘍の大きさや診断から1年以内の全死因死亡率に有意な変化が見られなかった点です。これは、パンデミックによる診断数の変動が、患者の予後に直接的な悪影響を及ぼさなかった可能性を示唆しています。手術までの期間については、パンデミック期間中に若干の遅延が見られましたが、これは手術室の利用可能性の変動など、パンデミック特有の状況が影響したと考えられます。
今後の展望と研究の意義
本研究は単一の施設における結果であり、一般化には限界がありますが、パンデミックが甲状腺がんの診断数に与えた長期的な影響について貴重な洞察を提供します。2015年以降のガイドラインの普及や、より正確なリスク評価システムの導入が、不要な生検の減少に寄与し、診断数の減少につながった可能性も指摘されています。今後、2023年以降のデータを含めた長期的な追跡調査により、この減少傾向の持続性や、それが患者の転帰や医療システム全体に与える影響をさらに明らかにすることが期待されます。