米トップ大学と中国監視技術の連携:人権問題と技術移転の複雑な交錯

米トップ大学と中国監視技術の連携:人権問題と技術移転の複雑な交錯

社会経済ソーシャルジャスティスウイグル人権侵害AI監視米中関係大学倫理

最近発表された報告書により、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学、スタンフォード大学といった著名な米国の大学が、ウイグル族イスラム教徒に対する監視活動に関与する中国のAI研究所と連携している実態が明らかになりました。これらの連携は、共同研究論文の発表という形で行われており、人権侵害につながる可能性のある組織への機密技術や知識の移転に対する深刻な懸念を引き起こしています。

研究協力の実態と背景

著名大学と中国AI研究所の連携

Strategy RisksとHuman Rights Foundationが発表した報告書は、MIT、スタンフォード、ハーバード、プリンストンといった米国のトップ大学が、中国のAI研究機関と協力関係にあることを指摘しています。これらの中国の研究機関は、中国の監視システムおよび国家安全保障体制に深く関与しており、特にウイグル族に対する人権侵害行為に繋がっているとされています。

Zhejiang LabとSAIRIの役割

報告書によれば、Zhejiang LabとShanghai Artificial Intelligence Research Institute (SAIRI)という2つの主要な中国国営研究機関は、2020年以降、欧米の研究者と約3,000本の論文を共同で執筆しています。これらの機関は、ウイグル族を標的とした監視プラットフォームの開発に関与するCETC(中国電子科技集団公司)と直接的な関係を持っています。米国政府は、トランプ政権およびバイデン政権ともに、中国によるウイグル族への対応を「ジェノサイド(集団殺害)」と非難しています。

監視技術への協力と懸念される影響

これらの中国の研究機関は、米国政府からの資金援助も受けつつ、「多対象物追跡」「歩容認識」「赤外線検出」といった技術分野で研究開発を進めてきました。報告書は、このような共同研究が、人権侵害や大規模な監視活動を助長し、さらには中国共産党(CCP)と関係の深い中国企業への機密技術の移転を促進する可能性があると警告しています。この問題の核心は、単なる情報収集活動にとどまらず、中国の国家安全保障に関わる研究機関が、西側諸国の教育機関から「通常の研究パートナー」として扱われている現状にあると、報告書は強調しています。

連携の現実と今後の課題

「正常化」の危険性

報告書は、西側のAI倫理団体や学術界が、中国共産党がAIを国内の抑圧にどのように利用しているかについて、驚くほど関心が低いと批判しています。金銭的なインセンティブや人間関係が、これらの問題について声を上げることを妨げている可能性が指摘されています。ハーバード、ケンブリッジ、MIT、バークレーといった著名な研究所も、2020年から2025年にかけて、大学側が中国との共同研究を継続する一方で、中国によるAIを用いた抑圧行為について公に非難することはほとんどありませんでした。

透明性とデューデリジェンスの必要性

新疆ウイグル自治区では、過去10年間にわたり、100万人以上のウイグル族イスラム教徒が大規模な拘留、強制労働、再教育、そして顔認識、音声認識、移動履歴、さらには生体情報まで追跡する監視下に置かれています。報告書は、新たな規制が導入されなければ、西側の大学や公的研究機関は、中国の抑圧体制に「スムーズに組み込まれる」技術的進歩を提供し続けるだろうと結論付けています。国際的な研究協力においては、人権に関するデューデリジェンスの実施、外国との共同研究に関する透明性の向上、そして監視や防衛に関連する中国国営研究所との連携制限が求められています。

「平和的」研究の裏にある現実

中国の法律では、いかなる研究機関も中国共産党から独立して活動することはできないと定められています。国家安全保障法、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法などは、表向きは民間の研究機関であっても、すべての組織に情報提供を義務付けており、西側の研究成果が直接的に抑圧システムに取り込まれるリスクが存在します。この事実は、学術界における「平和的」な研究協力という名目の裏に潜む、より複雑で倫理的な問題を浮き彫りにしています。

考察:技術協力と人権の狭間で

学術界における倫理的ジレンマ

今回の報告書は、学術研究における国際協力のあり方について、重大な問いを投げかけています。科学技術の進歩は国境を越えて共有されるべきですが、その過程で人権侵害に加担する可能性のある国家や組織との連携については、より慎重な検討が必要です。特に、AIのような影響力の大きい技術においては、その開発と応用が倫理的な基準から逸脱しないよう、厳格な監視と透明性の確保が不可欠となります。

今後の研究協力における留意点

今後、米国の大学や研究機関が中国の研究機関と協力する際には、研究内容が人権侵害に利用されないか、より厳格なデューデリジェンスが求められます。共同研究の成果がどのように利用されるかについての透明性を高め、中国の国家安全保障や監視活動に直接貢献する可能性のある分野での協力を制限することが、倫理的な責任を果たす上で重要となるでしょう。これは、単に米国だけでなく、国際社会全体で共有すべき課題です。

技術移転の「正当性」を問う

「平和的」な学術研究という名目の下で、実際には抑圧的な体制を強化する技術が移転されている可能性は、看過できません。研究者個人が善意で協力していても、その成果が国家によって悪用されるリスクを常に考慮する必要があります。国際社会は、このような技術移転の「正当性」について、より深く議論し、国際的な規範や規制を整備していく必要があります。

画像: AIによる生成