
タイ、国民の「塩依存」に挑む!新税導入の光と影~食文化への影響と専門家の提言
タイでは、高血圧や腎臓病の増加という深刻な健康問題に対応するため、段階的な塩税の導入を検討しています。この政策は、教育キャンペーンでは効果が見られなかった高ナトリウム摂取の問題に対し、価格メカニズムが有効かどうかで議論を呼んでいます。
タイの食文化と健康問題の現状
国民の塩分摂取量の現状
タイでは、平均的なナトリウム摂取量が1日あたり約3,600mgと推定されており、世界保健機関(WHO)が推奨する1日の摂取量(2,000mg未満)のほぼ2倍に達しています。これは、国民の約88%が推奨量を上回る塩分を摂取している計算になります。
高まる健康リスク
この過剰な塩分摂取は、高血圧、心臓病、脳卒中、慢性腎臓病といった深刻な健康問題を引き起こしています。タイの成人人口約5,800万人から6,000万人のうち、約1,700万人が高血圧を患っており、約800万人が慢性腎臓病、さらに20万人が末期腎不全であるという統計があります。
塩分摂取の背景にある食文化
タイの食文化では、古くから塩分は食材の保存に不可欠であり、魚醤やエビペースト、塩漬け肉などが多くの伝統料理の基礎となっています。時代が移り変わり、塩分は保存の役割から、料理の味を引き立てる重要な調味料へと変化しました。タイ料理特有の「塩味、酸味、甘味、辛味」のバランスにおいて、塩味は基盤となる要素であり、家庭料理、レストラン、スナック菓子など、あらゆる場面で日常的に摂取されています。
塩税導入とその課題
塩税導入の狙い
タイ政府は、特にスナック菓子などの加工食品に段階的な塩税を導入することで、メーカーに製品のナトリウム含有量の削減を促し、国民の過剰なナトリウム摂取を抑制することを目指しています。税率は、製品に含まれる塩分量に応じて段階的に設定される予定です。
国際的なナトリウム摂取問題
タイだけでなく、世界的に見てもナトリウムの摂取量は依然として高く、非感染性疾患(NCDs)の増加が問題となっています。2013年にはWHO加盟国が2025年までに国民全体のナトリウム摂取量を30%削減する目標を掲げましたが、2023年時点でも達成した国はありません。シンガポールやインドネシアもタイと同様に高いナトリウム摂取量を示しており、これは地域全体で取り組むべき課題となっています。
税制だけでは不十分との指摘
しかし、塩税の導入に対しては、価格措置だけで国民の食習慣を根本的に変えることの難しさを指摘する声も上がっています。特に、屋台やレストランでの調理には税制が及ばないため、その効果は限定的になる可能性があります。また、一部の専門家は、メーカーが税負担を消費者に転嫁したり、消費者が価格上昇の影響を受けずに塩分の多い食品を選び続けたりする可能性を懸念しています。
今後の展望と多角的なアプローチの必要性
包括的な健康政策の重要性
専門家からは、塩税のような価格政策だけでなく、より包括的なアプローチが必要であるとの意見が出ています。例えば、南アフリカで成功したように、食品中のナトリウム含有量に法的な削減目標を設定することや、食品の健康度を分かりやすく示すパッケージ表示の義務化、さらには代替塩味物質の研究開発への投資などが提案されています。
食行動変容を促す教育と啓発
また、公衆衛生省とパートナー団体は、2016年から意識啓発キャンペーンやコミュニティでの知識向上、健康的な食生活の推進など、多角的な戦略を展開してきました。しかし、教育だけでは限界があることも認識されており、より効果的な食行動変容を促すための、ターゲットを絞った情報発信や、屋台の調理師へのレシピ改良支援、簡易な塩分測定器の普及なども重要視されています。
持続可能な健康社会の実現に向けて
タイにおける塩税導入の試みは、食習慣と健康問題という複雑な課題に立ち向かう一例です。この政策が成功するかどうかは、税制だけでなく、国民の意識改革、食文化への配慮、そして多角的な公衆衛生政策の連携にかかっています。約10年間で脳卒中、腎臓病、心臓病の症例を15万5千件減少させ、1万人以上の死亡者を減らし、医療費を31億バーツ節約できるという予測もあり、その効果に期待が寄せられています。しかし、消費者の負担増を招くことなく、健康的な食生活への移行を促すための、きめ細やかな配慮と継続的な努力が不可欠となるでしょう。